ラジオ収録

1/2

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

ラジオ収録

fragrance radio ハルト……清水先輩との初対面だ  これは仕事だ。ファンミーティングじゃない。しかも私は男。絶対に前世の記憶を持ち込んではいけない。 「おはようございます。初めまして、橋本優と申します。」 ちょっと噛んだ。 「おはようございます、清水遥人です」 丁寧に挨拶を返された。 会話が続くわけでもなく沈黙が続く。  優しい眼差し。すっと通った鼻筋。薄い唇。あぁ、「ハルト」が目の前にいる。  清水先輩とはファンとして一度だけ会ったことがある。それはお渡し会の時だ。お渡し会とは、抽選で当たった人がグッズに出演している声優から直接グッズを受け取ることができるというイベントだ。 私は清水先輩が出演しているラジオのグッズセットを購入した時にお渡し会に参加した。 あの時、順番で数秒しか話せなかった「ハルト」と今、一緒にいる。 「緊張してる? 」 「はい」 清水先輩はにこっと笑った。 「肩の力抜いて、気楽に行こ! 」 ハルトはやっぱりハルトだ この癒しのオーラ。人前でなくても清水先輩は優しかった。 「フレグランスラジオ〜 略してフレラジ! パーソナリティの清水遥人です」 穏やかな雰囲気そのままにラジオ収録が始まった。 「同じくパーソナリティの橋本優です」 「橋本君とは初めましてだね。よろしくねー」 「よろしくお願いします! 」 「まず最初のお便りから『2人とも初共演ということで、呼び名を決めてはどうですか』 だそうです。どうしようか」  え、えぇ……。呼び名なんて、成り行きで固定化されていくものではないのか。  しかし、私がファンの時は大抵こういうお便りを送ってしまう。なぜなら読まれやすいからだ。この「ラジオが始まる→呼び名を決める」の一連の流れは声優ラジオにおいて定型化しつつある。 「好きに呼んでいいよ? 」 清水先輩がこちらを見つめてくる。 「じゃあ、清水先輩で」 「それじゃ堅すぎるよ」 「じゃあ、遥人先輩で! 」 「分かった。そうしようか」  緊張で手に汗が滲む。  初めて、本人の前で「遥人先輩」なんて呼んでいる。  正直、前世から「ハルト」の名を本人の前で呼んでみたかった。それが今実現している。 「ユウ」 「は、はいっ」 「やっぱり『ユウくん』の方がいいかな」 「どっちでも大丈夫です」 「よし、ユウくんと呼ぼう」  突然呼び捨てにされてどぎまぎしてしまった。 結果、「ユウくん」に落ち着いたようだが 推しに下の名前で呼ばれるというだけで天にも昇る心地だ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加