αからΩまで働いてた

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「でも本当は早くアーティストデビューして仕事辞めたぁい……。もちろん辞めるのは軌道に乗ってからだけど……。もしくは宝くじ当たらないかな。宝くじは毎回連番で三枚買って一等前後賞狙ってるんだけど、全然当たらないんだよね……。早く好きなことだけしてお金が稼げるようになりたい。何なら生きてるだけでお布施が欲しい。不労所得かベーシックインカムでも可」 「人類の夢じゃん。戯言言ってないで早くお風呂入って寝な」 「はーい……」  食べ終わった容器をシンクに持っていき、水で流す。着ていた服を洗濯カゴに入れ、お湯の張られた湯船に浸かる。体が弛緩していく。無意識のうちに体が張り詰めていたんだなぁと思う。ゴミ捨てや洗濯など、家事はさくらがやってくれている。さくらがいなかったら、私は生きていくことすらままならなかっただろう。実家にいた頃の私たちは家事も手伝わず、好き勝手に趣味に走っていた。実家を出て分かる、母のありがたさ。ネーミングセンスはどうかと思うけど。 「ねーちゃん、着替えとタオル置いとくから。私は寝る」 「ありがと! あのね、さくら」 「なに?」  扉越しにさくらを呼び止める。 「さっきのは大体妄言だけど……。さくらと活動再開してアーティストデビューしたいのは本音だから」  少しの間を置いて、返答がある。 「……はいはい、今日のところは休んで。不死鳥のごとく復活する姉妹だと言うところを見せてやりましょう。とりあえず次の休みまで生きて。溺死体発見するの嫌だからな?」 「善処します……」 「生きろ、そなたは美しい」 「対義語は死ね、ブスって言うよね」 「名作を汚すな。はよ風呂上がって寝ろ」 「はーい、おやすみ」 「おやすみ」  こんな軽口を叩く行為ですら、MPが回復させる効果があるのだろう。仕事が終わって誰とも話せないでいたら、心がもっと荒んでいたかもしれない。持つべきものは妹だ。  次の休みには、デモテープを録って映画に連れて行こう。その後にはアフタヌーンティーにも行って、感想を語り合うのだ。  もちろん、姉ちゃんの奢りで。そのためにも早く寝て、せっせと残業代を稼ぐとしましょう。
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