147th-第三の人生

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147th-第三の人生

 冷めた目をソレが俺に向けたのが分かる。  伝わってくる空気が告げていた。  何も伝わっていないのか、そう俺を咎めているのが。  手を伸ばした所で、届く筈は無いのかもしれない。  だって、もうソレはこの世にいないのだから。  生きている者の傲慢だって思われても仕方ない。  けど、俺は手を掴んで欲しかった。  もうどうしようも無いかもしれない。  受けれ入れて貰える確証だって全くない。 『ソンな物ハ望ンデナイ。 タダ父さんを連レテ行ケレバソレデイイ。 父さんモソレヲ望ンデイタ。 消エルベキナノハお前達。 お前達サエ来ナケレバ』  ソレの言い分も分かる。  俺が来なければ、ズルーはずっとここで1人償い続けていただろう。  自分の息子を死なせた事を後悔しながら。  それでもズルーが幸せならそれでいいと思ってた。  けど、ズルーは言ったんだ。  俺と一緒にいたいって。 「分かってる、俺のせいだって」  全部、俺のせいだ。  俺が来なければ2人を苦しませたりしなかった。  苦しみ、償い続けるのが2人の幸せだっていうならそれを否定する気も無い。  けど俺は来てしまったんだ。  俺のせいでズルーの考え方に変化が産まれた。  ここで2人を見捨てるなんて出来ない。  俺のせいで苦しみが産まれたなら、出来ることはしたい。 「だから、橋渡しぐらいさせてくれよ。 死んでるんだろう。 なら、いいじゃないか。 どうせ死んでるんだ。 やり残したことぐらいやってけよ。 連れてくのはそれからでもいいだろう」 「口ダケナラ幾ラデモ言エルヨネ。 焚キツケル側ニ責任ナンテ無インダカラ」  言葉も思いも届かない。  それを噛み締めて俺は必死に探す。  どうしたら2人がわかり会えるのか。 『ダッタラ、身体ヲ貸シテ』  俯いている間に、ソレは直ぐ目の前にいた。 『俺ダケ、全部失ウノハ不公平ダ。 俺ニ全テヲ、息子ジャナイ事ヲアカセトイウナラお前も失エ』  身体が震えた。  実態がない筈なのに、頬に触れた手は驚くほどに冷たい。 『後デ返シテヤル、ソンナ約束はシナイよ。 自己満足ニ付キ合ッテアゲルンダ。 君ノセイナンダロ、ナラソノ体をクレ』  出来るわけない。  そんなこと。  だって、そんな事をしたらどの道俺はズルーと一緒にはいられないじゃないか。  死ねって言ってるのと同じじゃないか。  実験で消えていく仲間の悲鳴に目をつむって生き延びてきたこの生命をこんなところで捨てるなんて。  身体が震えた。
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