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1st-とまらないかゆみ
目がかゆい。
目が、とてもかゆい。
目が、目が、かゆい、かゆい、かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆい。
熱い、痛い、痛い。
俺は堪らずに目を掻(か)き毟(むし)っていた。
どうしてこんなところにいるのか分からない。
何故、こんなに目がかゆいのかもわからない。
目を開けてなんていられない。
ともかく、目がかゆくてかゆくてかゆくて痛くて熱くて周囲を探る事も出来ない。
痛い、痛い、痛い、熱い、熱い。
最初はかゆくて熱くて痛くて、何も考えられなかった。けれども、慣れって怖い。
かゆい。
少しずつ少しずつ思考が戻り初めている。
熱い。
今もまだこすり続けている。
痛い。
いっそ目を抉ってしまえたら、抜き取ってしまえば楽になるのだろうか。
俺は目尻に指を押し込んだ。ぐぼっと、空気が抜ける音が聞こえる気がする。
どうして。
抜き取れば楽になるだろうか。ぶちりぶちり、ぐしゃりと頭の奥で音が響いた。手が生暖かい。
「か、くっ」
息が詰まる音が喉からこみ上げた。
声は出なかった。
ただ手が濡れた時、頭を叩き潰して串刺しにすりょうな鋭い痛みが突き抜けた。
なんで。
俺はこんなに苦しんでいるのだろう。
うっすらと残った目を開く、歪んだ視界。
それども緑と茶の境界はわかった。
血に濡れていない片手が掴んでいる物が、地面から生える草であることに気がついた。
口に泥が入っている。
動かせば草が飛び込む。
身体は地面に這いつくばっていた。
息が荒い事に今気がついた。呼吸もままならない。
短く繰り返す。
心臓はどくどくと早く脈打った。
モザイクがかかる景色、頭に冷たい雫(しずく)がぽつぽつと当たる。少しだけ呼吸が楽になった気がする。
空気が重い。
土の匂いがする。
目がかゆいのも、少しはマシになった気がする。
手の中にある自分の成れの果てを捨てて、俺はもう片方の目に手を伸ばすなら今の内だ。
また耐え難いかゆみに襲われる前にえぐりださなきゃいけない。
腕が震えた、手も震えている、指先が定まらず鼻骨に当たる。
怖い。
怖くなんて無い。
先程のかゆみを味わうくらいなら、今失くしてしまった方がマシに決まっている。
「うう、ひぐっぐうう」
漏れたのは嗚咽(おえつ)だった。
目に指を潜り込ませるのが怖い。
今やったばかりなのに。
「ああ、うぐっうううう」
視界が滲(にじ)む。
俺は残された目を抉ることは出来なかった。
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