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考える必要の無いことだった。
後のことなんて考える必要は無いことだった。
不安に、焦りに蓋をして何故だか広がる漠然とした恐怖心に突き動かされるまま鍵を1つ開放すれば、後に引けなくなる。
だって、1つ鍵を開放してしまったら、その時点でもうズルーの目が見れなくなるのは明らかだったから。
後はただ、全部思考を停止してただ願えば良かったのだ。
本物のアメが戻ってきて喜ぶズルーの姿だけを信じていれば良かったのに。
嫌われたくなかった。
一度嫌われてしまったら、もう元の関係には戻れない。
だって、ソレはアメじゃない。
アメの姿を借りていた偽物のなにかだ。
血の繋がりなんて微塵もない赤の他人どころか、住んでいた世界すら違う異物だ。
失いたくなかった。
暖かな手を「俺がいる」と言ってくれた言葉に甘えて、ずっとずっと側にいたかった。
ずっと側に。
自覚してから、ズルーと子供たちが接している様子を見ているのが辛くなった。
ズルーは、実験体である子供たちに距離を起きながらも大事に扱っているようだったから。
盗られてしまう気がした。
今まではズルーが側にいてくれる。
それだけで良かったのに。
子供たちと接し、自分との時間が減る度にソレは気が気でなくなっていった。
けれども所詮は実験体だ。
借り物の姿であるとはいえ、本物の息子に向ける愛情に勝てる訳がないとずっと思っていた。
アメの姿で居続ける限り、本物のアメを開放しない限り独り占め出来るものだと信じた。
けれど、それを壊したのがブライテストだ。
自分との時間を削ってまで、ブライテストの時間を優先させる。
脅されているからだとか、そんな理由はどうでも良かった。
ブライテストとベッドで過ごすズルーは、ソレの知らないズルーの姿だった。
ズルーの特別は自分だけだった筈なのに。
そしてその時に知ったのだ。
本物の子供でなくても、ズルーに愛される方法を。
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