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146th-心残り
「それは、本当にお前が望む関係だったのか」
目の前にいるソレは薄く微笑んだ。
『当タリ前ダロウ』
その微笑みが、やけに切なく見える。
ずっと夢の中で過去を追ってきた俺には分かる。
ソレは嘘をついている。
恋愛感情だ、父親への感情だなんて自分の感情を決めつけられたくないのだということはよく分かった。
俺もわかった口を聞きすぎたかもしれない。
けれど、はっきりと分かる。
ブライテストがズルーと結んだ関係は決してソレが望んだ関係じゃない。
じゃなきゃあ、傷つけたりしない筈だ。
ずっとズルーの側にいたいと、誰にも渡したくないと願いながらもソレはズルーの記憶を操作したり良いように操ったりはしなかった。
魔眼をコピー出来るソレなら簡単だった筈なんだ。
心を読んでズルーの望むものを与えて心を繋ぎ止めることも、書き換えて都合のいい存在にすることも出来た。
けれど決してソレはズルーの尊厳を貶めるような事はしなかった。
大切に思っていた筈なんだ。
ただ自分を見て欲しかった、息子として愛して欲しかったソレの思いはブライテストとズルーの歪んだ関係を知って歪んでしまった。
けれど、ずっと苦しかったんだろう。
ただ身体だけの関係を繋ぐのは。
じゃないと、最後の最後にズルーを傷つけたりする筈がない。
「ごめんな、そうかお前はただ怖かったんだな。
ズルーが側からいなくなるのが」
俺が考えていたことが全く見当違いだったとは思わない。
やっぱりソレがズルーに抱いている感情は恋愛感情とは遠いものに思えてしかたなかったからだ。
身体や心を求める感情がそこに含まれていたとは思い難い。
ソレにとって身体を求めるのも心を求めるのもただの手段だった。
俺と同じで、俺とは全く違う。
似ている部分があるからこそ分かる。
「身体で心が満たされる訳ない」
少なくとも俺は満たされなかった。
どんなに女を抱いたって、ズルーが恋しくて堪らなかった。
一時は満たされても、また心が空洞になる。
それをまた他の何かで埋めようとする。
俺は俺に優しくしてくれた女に変わりを求めた。
ソレは本当の思いを押し殺して、ズルーを繋ぎ止める事で目的を果たしていると思おうとした。
身体で繋ぎ止めることで叶えられない望みを埋めようと望んだ。
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