146th-心残り

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 ソレがズルーにもとめていた事はきっと恋人としての関係なんかじゃない。  傷つけたことが何よりの証明だ。  ずっと一緒にいたかった訳でもない。  それなら取れる手段はいくらでもあった筈だから。  ソレが欲しかったのはズルーが絶対にどこにもいかないという安心感。  自分が見捨てられないという保証。  血よりも濃い絆。  関係を定義づけられたくないと、ソレがどんなに謳おうと俺は思う。 「名前、呼んでほしかったんだろ」  びくりとソレが肩を震わせた。 「ずっともしアメじゃないとバレたら、本当の自分じゃないとバレたら、あったものが全て無かったものになるんじゃないかと思って怖かったんじゃないのか」  きっと、誰もが思うこと。  きっと、誰もが願うこと。 「本当の自分を見ても、側にいてくれる。 そんな確信が欲しかったんじゃないか。 やっぱりさ、見てほしかったんだろ。 本当の息子として。 血なんて繋がって無かったとしても、一緒にいた時間やズルーから貰ったものを無かったことにしたくなかったんじゃないか」  だからこそ、死の間際にズルーが自分を本当の息子じゃないと気づいている事を知って悲しんだんだろ。  本当の名前を拒否されて、真実を受け入れることを拒否されて傷ついたんだろ。  それはつまり、息子の代わりだったんだと告げられたも同然だったから。  俺はソレに手を伸ばした。  分かってる。  ソレが危険な存在なんだって、でも俺には痛いほど気持ちがわかったから差し出さずにはいられなかった。 「もう一度、ズルーに伝えよう。 名前を、なあ本当のあんたを知って貰おう」  ズルーは口下手だ。  そしてとても不器用だ。  けど、俺にはどうしても思えなかったんだ。  俺に必死に思いを伝えようとしたズルーは言葉が足りないながらも、ずっと俺の事を考えてくれてたんだってわかったから。  もしかしたら何か行き違いがあった可能性は十分にある。  そうでなくても、このまま思いを伝えないままズルーを連れて行かせたらどの道ずっとソレは傷つき続けるんじゃないか。  そんな気がした。
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