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148th-消え逝く残り火
冷たい暗闇の中に一人、外の様子が朧気ながら見える。
一歩、また一歩と狭まっていく視界は確実にズルー達の待つ、俺の部屋へと近づいていた。
近づいていく、また一歩また一歩と着実に。
身動き取れない状態でただそれを見守る。
俺はまた間違えたんだろうか。
それともこれで良かったんだろうか。
なんて聖人みたいな事思える訳がない。
ズルーの隣にいるのが俺だったとしても、中身が別人ならそれは俺じゃない。
嫌だ。
俺じゃない誰かがズルーの隣に立つのも、このまま俺の意識が遠のいていくのも。
返せよ、身体を返せよ。
必死に叫びたくたって、叫ぶ身体が俺にはない。
なんで俺ばっかりこんな目にあうんだろう。
みんなを見捨てた罰なのかな。
それとも加護持ちであるズルーに近づいたからなのかな。
それってそんなに悪いことなのか。
冷たさが眠気を呼び始めた頃、ソレは足を止めた。
扉の前に立ったらしい事が分かる。
ほんのりと温かい光を感じた。
「ダガーナイフ」
忌々しげにソレが呟いた。
暖かさが凍りつきかけた俺の思考力を呼び覚ます。
そういえば、ダガーナイフが気を失うまでソレはズルーの部屋を出ることが出来なかったしダガーナイフもソレの影響を受けていなかった。
火の加護は良くない物を焼き尽くし、浄化する力があるという。
ダガーナイフはもしかしてそれが格別強いのだろうか。
つまり、ダガーナイフが側にいればソレはズルーに近づけない。
そうだったら良いのに。
ダガーナイフがズルーにあんまり興味が無いのは明らかだ。
このままダガーナイフがズルーに張り付いていれば、ソレはズルーに近づけないかもしれない。
そうだ。
きっと近づけない。
ダガーナイフはずっとズルーをここに閉じ込めて見張っておく意思を示していた。
このままズルーの側を離れないで居てくれれば。
ソレをズルーに近づけないで済む。
ズルーを盗られないで済む。
おかしいな、ソレを説得したくてズルーと話をさせたくてこんなことになったのに。
ソレが俺の身体でズルーに近づくのが嫌で堪らない。
ズルーがもし入れ替わってることに気が付かなかったらと思うと怖くて仕方がなかった。
けど、大丈夫だ。
ダガーナイフさえ側に居てくれれば問題ない。
そんな俺の期待は、暖かな光が揺らいだ事で崩れることになる。
暖かった熱が僅かにだが引いた気がした。
直ぐに強くなったけれど、まるでうたた寝でもするように光そのものが時折明滅を繰り返す。
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