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150th-目覚め
「ジスト」
何度でも聞きたい、けれども聞きたくない声で俺は目を覚ました。
身体が凄く重たい。
瞼を開きかけた直前に身体が引っ張られたのが分かった。
据えた獣臭さが妙に懐かしい。
抱き寄せられた胸板は固くて岩のようで、どっしりとした安心感があった。
耳元で呼吸の音がする。
布越しに伝わってくる脈動が早くて激しい。
妙に心地よくて、また目を閉じようとして俺は気が付いた。
指先に力を入れると指が掌に指の当たる感覚が伝わる。
感覚がある。
暖かさを感じ、頭と背中を抱きしめる腕の力強さと外気の冷たさが伝わった。
状況を確かめたかったが、身体が気だるくて上手く動かせない。
頭も痛いし、何より呼吸がしづらかった。
身体がとても重い。
「あれからずっと眠っていたんだ。
俺が分かるか」
身体を離した後、ズルーは俺の目を見てそう言った。
焦点が定まらなくて、輪郭が朧気にしか分からなかったが俺はゆっくり頷く。
「何か食べたいものはあるか」
呼びかけに俺は答えられなかった。
頭が霞がかったようにぼんやりとしていたし、状況が上手く飲み込めなかったからだ。
「2人を呼んで来る」
それだけ聞こえたと思ったら、足音が徐々に遠のいていった。
焦点がはっきりとし、部屋の輪郭が分かってくるにしたがって段々と物が考えられるようになってくるが相変わらず身体が上手く動かせない。
俺は部屋のベッドで寝ていたようだった。
簡素な棚とベッド以外何も無い部屋。
天井の通気穴にかつて脱出を試みた際、手錠を引っ掛けた傷跡がそれを証明している。
俺の中に入ったソレはどうなったんだろう。
確かに俺の身体は乗っ取られた筈だ。
未だ、心の中に囚われた際の手足を縛るような冷たさが若干胸の奥に残っている。
あれから何日たったのか、あのまま崩れ落ちて今までずっと眠っていたんだろうか。
それとも、そうではなくてもしかしたらと心の中で考えたくない物語が出来上がってしまう。
もう、ズルーとは十分楽しんだ後でただ飽きたから放り出されたのではないかという疑問。
けれど、その疑問は直ぐにソレが辿ってきた今までのアメとしての過去を思い返してそれはないと打ち消した。
それとも俺に見せつけるつもりなんろうかと身体の芯が冷えた時、ふっと舞い上がった風が俺の疑問を軽くした。
身体は上手く動かせなかったが、視線を手元に持っていくことくらいは出来た。
風は手元から吹いていた。
いつの間にかはめた覚えのない腕輪が腕におさまっている。
以前、一回だけはめたことがある腕輪だ。
フリーと施設の奥を探検した際に渡されたお守り。
腕輪の纏う風はとても心地よくて、そこを中心に俺の感覚があるようだった。
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