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俺の身体に入って、俺のことや俺と過ごしたズルーの事を知って考え直して身体を返してくれたって考えたいところだけれどきっとそれは無いだろう。
今俺が身体を取り戻せているのはきっとあいつにとっても想定外の筈。
「言っていたら、何か変わっていたか」
ああ、ズルーとあいつも似てるんだ。
親子なんだな、二人共臆病なんだ。
俺もだけど。
本当の思いを知りたいと思いながらも、知る必要は無いと蓋をしてる。
「俺、ズルーと過ごして思ったことがあるんだ」
浮かんでくるのは傷つけてばかりの日々だった。
ちゃんとズルーの気持ちが考えられなくて、自分の思いだけを伝えようとして、相手の気持ちを傷つけて。
「魔眼者と加護持ちはどう足掻いても傷つけあうしかないんじゃないかなって」
どうやったら傷つけ合わずに済むのか、俺だっていっぱい考えた。
お互いが違いを見て見ぬふりすれば、綺麗なところだけ、都合のいいところだけ見てれば嫌なことなんて起こらないんじゃないかと思って閉じこもりもした。
けれども回りはそんな俺を放っておいてなんてくれなくて、俺も自分の気持ちに蓋をしたままでいるのは辛かったんだ。
ズルーに会いたいという気持ちを抑え続けたあの日々はずっと世界が歪んでいた。
「お互いがお互いを知るために、傷つくことは必要なんじゃないかなって」
傷つくことなく相手の気持ちをしれたらどんなに良いだろう。
けれどそれは難しいなと痛感する。
だって俺は俺の気持ちに嘘をつく。
俺だけじゃない、ズルーもあいつもフリーも。
自分の気持ちに正直に生きてるように見えるフリーですら、ダガーナイフとの関係はちょっと妙だ。
きっと誰もが自分の気持ちですら完璧になんて理解してない。
なのに痛みも無い、リスクも無い安全圏からの相手の言葉なんて信じられるだろうか。
俺は信じられなかった。
何度ズルーから好きだって言われたって、俺だけが好きなんだって。
気持ちを受け取るにはどちらかが傷つく覚悟を決めなきゃいけない。
傷ついてでも伝えたい気持ちがあるから、その思いはきっと伝わるんだ。
あいつはきっとその覚悟を決められない。
「あいつは臆病なまま死んじゃったんだ。
だからあいつはきっと傷つく事がもう出来ない。
傷ついてまでズルーに言葉を伝えることは出来ないんだと思う。
あいつの時間は死んじゃった時で止まっているから。
だから動かすには、ズルーが傷つかないと駄目だと思うんだ」
俺はそこで言葉を切った。
あいつに息子だと思っていたことを伝えてあげて欲しいというのは簡単だけどそれじゃあ駄目だ。
俺に伝えた言葉じゃなくて、あいつに向けた言葉じゃなきゃきっと届かない。
伝えて、あいつからも引き出さなきゃいけない。
言えずに止まってしまった思いを。
それはきっとズルーじゃなきゃ出来ない。
「大切にしていたつもりだったんだがな」
ぼそりとズルーは呟いた。
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