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 前髪をかきあげる如月先輩の癖。これは変わっていないのに。  男性にしては綺麗な前髪がさらさらと落ちる。少しむっとしたような端正な横顔。 (口角が上がっているか下がっているかでこんなに印象が違うなんて)  私は小さくため息をついて、視線を落とした。歩調が遅くなる。すると今まで隣にいた如月先輩の後姿しか見えなくなった。 (私、何かしちゃったのかな……)  思わず涙が浮かんだ目をぐいとこすり、小走りで如月先輩の横に並ぶ。そして、もう一度その横顔を盗み見た。  ちっとも私を見てくれない横顔。長い睫に縁取られた目が凛と前を向いている。 (どうしてだろう)  数日前は歩調も合わせてくれたし、よく私を見て微笑んでくれた。  先輩の横顔が好きで、ついつい見ちゃう私に。 「何?」  と。  同じ言葉。同じ声。  なのに私の方を向いた如月先輩は、今は怪訝そうな顔をしている。 「何でも、ないです」  私は俯いてしまった。 (先輩、私に飽きちゃったんじゃ) 「どうしたんだ? 言いたいことがあるなら言えよ?」  如月先輩は少し苛立ったような口調で私に言った。 (駄目だ) 「ほら。せめて、顔ぐらいあげろよ?」  言われるままに顔を上げると、一筋の涙が頬をつたった。 「……」  困ったように袖で額の汗をぬぐう如月先輩。 「す、すみません! なんでもないんです! ごめんなさい」  慌てて謝る。  如月先輩が小さくため息をついたのを聞いた。 「恭子は謝らなきゃいけないことをしたのか? 俺がわりぃんだろ、きっと」  どうしていいかわからないと言うような口調の如月先輩。 (怒っているわけじゃない?)  私は驚いて如月先輩を見た。ばつが悪そうに、視線を泳がせる先輩がいた。 「いえ、本当になんでもないんです。ただ……」 「なんだよ? 言わなきゃ、俺、わかんねえよ、悪いが」 「私、何か怒らせることしたかな、と思いまして……」  言ってから、ますますうざいと思われたらどうしようと思う。  だが、如月先輩は気にしていないようだった。 「あ、俺の顔、もしかして怖かったのか? べ、別に怒っているわけじゃないから。あんまり気にすんなよ。わ、わりぃ」  如月先輩が嘘を言っているようには見えなかった。  でも、どうして如月先輩はこんなに変わっちゃったんだろう。
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