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角を曲がると、俺と実咲の家が見えてくる。
「うまくいくといいね」
「……そーだな」
「……怖いんだ?」
……なんでこいつはこう、俺の気持ちを見透かすんだろう。……長いこと一緒にいるからか。
「大丈夫だよ。恋愛は壁でも槍でもないんだから、当たってもくだけたりしないよ」
「心の傷は?」
「錯覚だよ」
思わず笑いが漏れた。
「まじかよ」
「まじだよ」
俺はときどき、ふっと思い出す。
昔、この通りを少し奥に入ったところで実咲と2人、迷子になったことがあった。
今思えば家のすぐ近所だけど、当時のまだ5歳かそこらだった俺たちにとっては未知の場所で、もう永遠に家にたどり着けないんじゃないかと思うほど、けっこうな恐怖と心細さだった。
俺たちはお互いの手をぎゅっと握って、家に続く道をさがし歩いた。そのうち泣いて座り込みそうになった俺に実咲は、
「のぞむ、だいじょうぶだよ。みさきはむてきなんだから」
そう笑って、俺の手を引いたのだ。
それは実咲の強がりだったけど、当時大好きだった戦隊もののヒーローよりもずっと、実咲はヒーローだった。
こんなこと本人にも誰にも、絶対に言わないけど。
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