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「あ、西岡」
「え?」
西岡が、いた。目が合って、思わず声が漏れる。
直後、西岡は俺からぱっと目をそらしてゆっくりと、自然な感じを装って元来た道を戻り始める。ちょっと待て!
「もしかしてあの子、誤解したんじゃないの?」
状況を察したらしい実咲が、西岡のほうに顔を向けたまま俺に問いかける。
「……かもな」
実咲が彼女だと誤解されたのかもしれない。
けど、だから、なんだ。俺は西岡の彼氏でもないし、そもそも西岡は俺のことなんとも思ってないかもしれない。だとしたら弁明なんて、意味がない、どころか。
「なに突っ立ってるのよ。行かなくていいの?」
考えを巡らせて動けずにいる俺の手から、実咲はまだ少し残っている大粒いちごアイスを取り上げた。
「望のアイスはあたしがおいしくいただいておくから」
「おい」
「望が帰ってくるの待ってたらとけてなくなっちゃうでしょー」
「けど、ていうかそうじゃなくて」
「ん?」
西岡を追いかけることへのためらいと、実咲を置いて行くことへのためらい。
それに、
「あたしのことなら、アイスおごってもらったからもう十分だよ」
自分に向けられた俺の視線に気づいたらしい実咲に、
「いってらっしゃーい」
今の俺は明らかにのせられている。
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