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けど、のせられてるから行ける、とも言える。
西岡の姿はもう見えなくなっていた。
意を決して、重い一歩を踏み出した、その時。
「望」
実咲が俺を呼んだ。ふりかえる。
「望は、望が思ってるより2倍はかっこいいよ。自信もって」
実咲が笑う。無敵の笑みだった。
なんだそれ、と思うのに、うまく言葉が出てこない。自然と口角が上がるのをとめられなかった。
実咲はいつも俺の背中を押す。いつのまにか俺よりも小さくなっていたその手は、けれど俺よりも大きいことを俺は知っている。
記憶ができはじめたような頃からずっと隣にいた。たぶんこれからもしばらくは隣にいる。いれたらいい。いてくれたらいい。と思う。
「アイス、食べすぎて腹こわすなよ」
笑った。早く行きなよ、と実咲も笑う。
俺は今度こそ駆け出した。
公園を出た先で、視界に西岡の細い背中をとらえる。
もうどうにでもなれ、と思った。なげやりなんかじゃなく。
「西岡!」
どうなっても、たぶん、後悔はしない。
失うものはたぶん、なにもない。
青い夏【完】
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