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 妻とは職場で知り合った。交際が始まり、それは順調に進み、私はプロポーズをした。妻は喜んでくれたが、すぐには「はい」と言ってくれなかった。 「実は私ね、カドロゴ教の信者なの」  妻は聞いたこともない宗教の敬虔な信徒だったのだ。そんな片鱗は一切見られなかったし、私はただただ驚いた。そして次に湧き上がってきた感情は、不安、である。その宗教はいわゆるカルトというやつなのではないか、危険な思想を持っているのではないか、結婚するには私も入信せねばならないのではないか、などなど。  ひとまず妻からその宗教について詳しく聞いた。妻曰く、危険な新興宗教の類いではないこと、仏教を基にした宗教で、日々の生活を健やかに過ごすための穏やかな宗教であること、信徒の配偶者が入信する必要はないこと、などを教えてもらった。私はそれを聞いて安心した。が、妻がいうには日々健やかに過ごすための祭事が月一回はあり、それに参加することがある、ということだった。それも危険なことはなく、一般の信徒は経をあげるだけらしい。配偶者の参加は不要とのことだった。 「プロポーズしてくれて嬉しい。ありがとう。でも、私がカドロゴ教の信者だってこと、そのことに理解がないと結婚は難しいんじゃないかなって思うの。だから、一度カドロゴ教のこと調べてみて。それでも私と結婚してもいいって思ってくれたら、すごく嬉しい」  私は妻に言われた通り、その宗教について自分でも調べてみた。密教の系譜に連なるらしいその宗教は、全国でもそんなに信者数は多くない。そのせいかネットから拾える情報はほとんどが公式のもので、そのほとんどが妻の言っていたことに終始する。悪い評判などもなく、かといって崇め奉るような書き方もされていない。これだけを見る分には問題なさそうだが。  私は妻に言って、その宗教の寺院などを見学できないか聞いてみた。実際に見てみたいと思ったのだ。妻は喜んで私を連れて行ってくれた。山奥にある古めかしい寺院へ行くのは、ちょっとした旅行のようで楽しかったことを覚えている。寺院は他の仏教の寺などと変わらないように見え、僧侶の方々も気さくで優しい人たちだった。自分たちの信じる教えをわかりやすく説明してくれたが、私を折伏(しゃくぶく)しようなどとは全く考えていないようだった。教え自体も、人生を豊かに生きていくための哲学のようなもので、怪しいところは何一つなかった。  私は妻を愛している。私が妻と結婚したとしても、この宗教に関わる行事に一切私は参加しなくていいと妻は言ってくれた。それで十分だと、私は再び妻に結婚を申し込んだ。
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