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 結婚して二年後、子どもが産まれた。かわいい男の子である。自分の子どもがこんなにかわいいとは思わなかった。妻も私も、子どもの誕生を大いに喜び、双方の両親、親戚、友人たちからもたくさんの祝福を受けた。子どもはすくすくと育ち、頭の良い、優しい子になり、私たちの日常はそれはそれは豊かで、健やかであった。  息子が自殺したのは、彼の三十歳となる誕生日だった。すでに家を出ていた息子の訃報は、彼の同僚である青年からもたらされた。妻も私も信じることができず、取るものもとりあえず、病院へと急いだ。ベッドの上で横たわっていたのは、間違いなく私たちの愛する息子だった。首を吊っており、酷い形相と成り果てていたが、身体にあるほくろの形や位置が息子であることを雄弁に語っている。  物言わぬ息子の前で泣き崩れる私とは対照的に、妻は非常に冷静である。妻が淡々と息子の帰宅の準備をする。私はこの世の終わりと思うほど落ち込み、妻に腕を取られて息子の遺体と共に車に乗り込んだ。  気づくと車はどんどん山道へ入っていく。運転しているのは白い服を着た知らない男である。私はふと我に返って隣に座っている妻を見た。妻は凛とした表情で前を向いており、その横顔はとても美しい。私はあまりにも冷静な妻が怖くなった。息子の死を受け入れられず、おかしくなってしまったのではないかと、そう思ったのだ。私はそっと妻の手を握った。すると、妻は両手で私の手を包み込んだ。 「もうすぐ帰ってくる」  そう妻は囁いた。 「帰ってくるの」  そう言った妻の表情は張り詰めていたが、わずかばかり笑っているようにも見えた。
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