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 隣で妻が両手を合わせて祈り続けている。信仰している宗教の経典を暗記している妻は、ぶつぶつとそれを(そら)んじており、時折り手に絡めている数珠をじゃらじゃらと鳴らす。その横で正座をしている私は、ただ目の前で行われている儀式を呆然として見ているだけだった。  祭壇の左右には大きな篝火(かがりび)が火の粉を巻き上げ、経がひと段落するたびに火種となる枯れた(しきみ)()べられる。その手前のスペースには大きな絨毯が敷かれ、サイコロの目のように配置された五つの曼荼羅が描かれていた。  曼荼羅の上にはそれぞれ人がいて、なんでもこの宗教の僧侶らしい。  角の四つの曼荼羅の上にいる僧侶は男女二人ずつで、その風貌は異様かつ、狂人のようだ。頭巾から靴の先まで真っ白で、身体の線がよく見えるピッタリとした服装である。四人とも引き締まった体型で、生きた彫像のようだ。それこそ胸のラインどころか乳首の形もくっきり浮きあがっており、お尻の割れ目もまるで何も身に付けていないときと同じくらいはっきりと見え、目のやり場に困る。男性にいたっては性器の形がもろに見えており、もはや全裸に近い。顔も真っ白に塗られており、髪は頭巾の中に収められているのか、見えない。彼らは一心不乱に動いている。コンテンポラリーダンスのようなその動きは、四人とも全く同じである。非常によく訓練された一糸乱れぬ舞に、私は場違いにも感心してしまう。  中央の曼荼羅には、黒尽くめの僧侶が座っており、こちらは文字通り微動だにしない。呼吸すらしていないのではないかと思うくらい、全く動いていない。人形かと思いたくなるが、儀式が始まる前、その場所に座りに行った僧侶を私は見ている。  絨毯の敷かれているところから更に手前のスペースには畳が敷かれており、そこで妻と私は並んで正座をしている。そしてさらにその後ろには、三十人くらいはいるだろうか、真っ白な法衣のようなものを着た僧侶たちが、妻と同様に経典を誦じていた。経典どころか、この宗教のことをほとんど何も知らない私は、ただ妻の隣で手を合わせることしかできないでいる。
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