視線恐怖症の魔女ですが、殿下が私を妃に迎えると言って譲りません。

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 南の森には、虹をかける幸福の魔女が棲む。  (さかのぼ)ること約10年前。村に住む3歳の子供がそんな噂を流したことが全ての始まりだった。  歴史ある王家が治めるこの国では、おとぎ話と違って魔力を持つ全ての者が一般市民から迫害(はくがい)を受ける事は無い。  特に女性の魔法使い――『魔女』は豊穣(ほうじょう)繁栄(はんえい)象徴(しょうちょう)として重宝(ちょうほう)されており、街を歩けば両手いっぱいに貢ぎ物を贈られ、(ほうき)で空を飛べば合掌と共に(あが)められる。  そんな魔女として21年前に生を受けたドロシー=ウェイレットは現在、困惑の最中にあった。 「い、今、なんと……?」 「何度でも言おう。俺の(きさき)になってくれないだろうか?」 (……これは夢?)  月の光で染めたような銀色の髪を揺らしてドロシーの前で(ひざまず)く男性は、誰がどう見てもこの国の第二王子・アーネスト=ライランスだ。  ドロシーは“とある理由”で彼の顔を正面から見る事ができないのだが、無礼にも目を逸らしたまま黙り込み更には小動物のようにぷるぷると体を震わせる彼女に対して、アーネストはくすりと小さな笑みを漏らす。
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