第三部:白いシャツの少年

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 そのやり取りにくすりと笑った御堂 が侑久を向く。手には4つに折り畳ま れた、あの用紙がある。  「君たち、まだ残っていたんですね。 でも、ちょうどよかった。蘇芳君に 良い知らせがありますよ」  「良い知らせって、もしかして……」  吉報の予感に、智花が上目遣いで 御堂を覗き込むと、彼は大きく頷いた。  「おめでとう、蘇芳君。来春から、 晴れてT大生です。宇宙工学科から 合格の知らせが」  そう言って、手にしていた紙を広げ、 侑久に渡すと、本人よりも先に智花が 歓喜の声をあげた。  「やっぱりぃ!たっくん、おめでと う!ぜんっぜん心配してなかったけど、 でも、ホントに受かって良かったねぇ」  「……ありがとう、智花」  腕にしがみつきながら満面の笑みで 祝福してくれる幼馴染に含羞むと、 侑久はちらり、と千沙に目を向けた。  千沙も御堂がそうしたように、頷く。  「合格おめでとう。これでまた一歩、 夢に近づいたな。T大に推薦で受かった 生徒は、蘇芳君が初めてだ。きっと、 大学でもその力を存分に発揮できると 思う。私たちもこの場所からずっと 応援しているよ。とにかく、頑張って」  教師として、あるいは、「ちぃ姉」 として、彼に伝えるべき言葉を千沙は 背筋をピンと伸ばし、口にする。  心の内はまだ、愛惜の念がこびり付 いて仕方なかったけれど、こうして侑久 の顔を前にすれば歓びに口角も上がる。  「ありがとうございます、高山先生」  侑久は誇らしげに笑みを深めると、 そっと紙を折り畳み、御堂へ返した。  その横を、二階から下りてきた男子 生徒が会釈しながら通り過ぎてゆく。  臙脂色のネクタイをした、高三生だ。  四人は一瞬沈黙し、その背中を見送る と、また言葉を交えた。  「君の方にも大学からメールが届いて いると思いますが、担任の口から合格 を知らせることが出来て良かった。本人 を差し置いて先に祝杯を挙げるのは申し 訳ないのですが、実はこのあと店を予約 していてね。しばらく、“お姉さん”は お借りします。君たちは気を付けて 帰りなさい」  二人を交互に見ながらそう言った御堂 に、瞬間、侑久が顔を強張らせた気が した。が、「えーっ、ちぃ姉ずるーい」 と、智花が口を尖らせたことで千沙の 意識はそっちに向いてしまった。  「だから、先生と呼びなさい」  「はぁーい。高山センセイ」  反抗的にそう言って、ぷい、とそっぽ を向いてしまった妹に眉を顰める。  いったい、このやり取りを何度した ことか……。最近の智花は特に、自分に 対して当たりが強いようにも感じる。  「じゃあ、俺たちはこれで。行こう、 智花。早くしないと正門が閉まるよ」
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