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筆箱を見て、ため息。
ランドセルを見て、ため息。
ついでに絵の具箱を見てため息と来れば。
「さーなちゃーん?」
妹が早く帰宅するようになってから一週間。ついに私は痺れを切らして、彼女の部屋に突撃した。昔から姉妹仲は悪くないと思っている。彼女の部屋に無断で入ることも少ないし、それは向こうも同じだ。私がドアをノックもせすに開けて入っても、佐奈は嫌な顔一つしなかった。多分、そろそろ声をかけられるだろうなと思っていたのだろう。
「顔がくっらい。マジで暗い。どうしたん?」
「……何でもない」
「はい嘘ー。こちとら九年もあんたのお姉さんやってるわけ。気づいてないはずないでしょうが」
「…………」
本人としても、悩みをどうにかしたい気持ちはあるのだろう。しかし、姉に相談すべき内容か、それで解決するのかでぐるぐる考え込んでしまっているらしい。
こうなれば仕方ない。こっちはファンタジーゲームに次いで推理漫画も好きなのだ。ちょっとした推理を披露してしんぜようではないか。
「あんたが言わなくてもいいよ、当てちゃうから」
びしっ!と名探偵さながらに彼女の眼前に指を突きつけて宣言する。
「まず、ランドセル。あんた結構じゃらじゃらとキーホルダーとかぶら下げてるタイプだったけど、いつの間にかごっそりなくなってるでしょ。何で?」
「そ、それはその」
「一つ二つなくなったなら、落としたかなーと思うわけ。でもごっそり全部でしょ?いじめられてて全部取られた可能性もなくはないけど、無理矢理引きちぎられたわけでもなさそうだし、ぶっちゃけ綺麗に外れてる印象。ランドセルに傷もない。そもそもゼロとは言わんが、サッカー部やってて運動神経よくて他の子より体がデカイあんたはいじめられにくいでしょ。喧嘩強いのも姉の私はよーく知ってるし」
だから、いじめられて取られたとかではない、と思う。彼女が自分の意志で外した可能性が高い。では、何故外したか?
「私の記憶にある限り、あんたのキーホルダー類って殆ど自分で買ったもんじゃなくて、幼稚園の頃からのお友達に誕生日やクリスマスで貰ったやつだっまはずだよねえ」
びくり、と体を震わせる佐奈。やはり図星か。
「そういえば、筆箱もそうだったんじゃなかった?あんたがため息付きながら見てたアイテム。……そんでもって、あんたが最近やたらと早く帰ってくるわけ。いつも一緒に遊んでた友達と遊べなくなったからって考えるのが妥当っしょ」
「え、えっと……」
「今時十歳くらいで塾行ってる子も珍しくないし、事情があって遊べなくなったって可能性もある。でも、それだけならキーホルダー外す意味がない。あれは、キーホルダーを見てその子を思い出すのが辛かったから。その子のことを嫌いになったにしては、イライラしてるんじゃなくてあんたは落ち込んでる空気。まあ、そうなると答えは単純明快だよね」
なんかもう、推理なんてレベルでさえない気がするが。本人の反応からするに、ほぼ当たりと見て間違いなさそうだ。
「あんた、真澄ちゃんと喧嘩したね?で、仲直りしたいのにできなくて悩んでる」
私が言った途端。ぽろり、と佐奈の目から涙が溢れ落ちたのだった。
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