走り出した君を僕は黙って見とった。

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 同んなじ町内で生まれた僕らは、田舎の狭い世界ん中で当たり前につるんどった。  君は僕のことを名字から取って〈かげ〉って呼んだけど、最初は嫌じゃった。家族も近所の人らも、みんな名前で呼ぶのに、一番の友だちのようちゃんだけ、なんでって。  けど、小学校に上がって、ひとつしかないクラスに僕と同んなじ名前の、それも女の子がおるとわかった時には、心の底から君にお礼を言うた。  ようちゃんが〈かげ〉って呼ぶから、みんなも〈かげ〉って呼ぶんが普通になって、誰も僕のことを女みてぇな名前じゃってからかわんかったからね。
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