走り出した君を僕は黙って見とった。

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「俺…っ、俺、そがぁな気ぃはなかったんじゃ!ほんまじゃ!」  今にも溢れそうに涙を溜めた目で僕を見ながら、ようちゃんは声まで震わす。  子どもの頃、僕を強烈に引き寄せとった輝きは、目の前に居る詰め襟の中学生からは感じられんかった。 「じゃけぇ……じゃけぇ、許してくれ…!かげ…!」  擦り切れて半分聞こえん言葉が、ザラザラと空気を揺らす。  今のようちゃんは僕よりずっと背も高いから、きっと大人の声になる時期なんじゃろう。  じゃから、高い音が息の足りん笛みたいに薄いんじゃと、なんとはなしに感じた。  六つ上の兄さんが中学生の時、そんな風になっとったから。  小学校も中学校も一緒の校舎じゃから、学校に長いこと居ると声を変えられてしまうんじゃと、ようちゃんと僕は昔、本気で心配しとった。どうしたら喉をやられんか、真剣に考えたこともあった。
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