7人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は知らない
『”真野冬美は人を殺した”。私は犯罪者だもの』
たしかに真野は、そう言った。
昨日、職員室に資料を持っていった後、真野は静かに独りで帰っていった。
廊下に響いた真野の足音は、悲しさを感じた。
「おーう剛!おはっす!」
朝っぱらから、勇人は俺の体に乗っかってきた。
「朝っぱらからお前は元気だなー…俺は…はわぁ…眠いってのに」
「あくびなんかしちゃって〜夜遅くまで何してたんだよ」
「期待なんかしてもそんな事してないよ、ゲームをしてたんだよ」
他愛のない会話、これが勇人との毎朝。
教室に入ってもだべって、HRもだべって、授業中も…。
けど真野には、そんな暇もそんな人もいないのかも…。
て、なんで俺真野のこと。真野が…気になるんだ…?
まだ、真野の噂は絶えない。
本当に、真野は人を殺したのか…?関係ないはずなのに、俺は首を突っ込む。
「今日、俺日直だから」
「おう、俺も早く帰んないと!じゃあな剛」
「あぁまた明日」
日直はめんどくさい。すぐに帰れないし、日誌を書かないといけないし。
そう言えばもうひとりの日直って…。
「真野…」
ふと前を見ると、黒板を真野が消していた。そうか…黒板消しも日直の仕事だった。てことは真野も日直!?
「廣田くん、後は私がやるから帰っていいわよ」
黒板を消しながら、真野はボソリとそう言った。
俺は日誌を書く手を止め、ふぅ…と息をついた。
「なんでお前は、そうやって自分一人で背負おうとするんだよ。俺に頼ればいいじゃん…………あの…さ、真野」
ふと、俺は一つの言葉が浮かんだ。
「お前ってほんとに、人殺したのか?」
俺の言ったその言葉に、真野は驚くことも動揺することもなかった。
ただ、黒板を消す手を止めた。
「私は人を殺したわ。母親を殺したのよ」
真野は、涼しい顔をしながらそう言った。
「聞きたい?どう殺したか」
今、教室は二人きり。
聞いていいのかわからないが、俺はコクリとうなずいた。
最初のコメントを投稿しよう!