俺は知らない

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俺は知らない

『”真野冬美は人を殺した”。私は犯罪者だもの』 たしかに真野は、そう言った。 昨日、職員室に資料を持っていった後、真野は静かに独りで帰っていった。 廊下に響いた真野の足音は、悲しさを感じた。 「おーう剛!おはっす!」 朝っぱらから、勇人は俺の体に乗っかってきた。 「朝っぱらからお前は元気だなー…俺は…はわぁ…眠いってのに」 「あくびなんかしちゃって〜夜遅くまで何してたんだよ」 「期待なんかしてもそんな事してないよ、ゲームをしてたんだよ」 他愛のない会話、これが勇人との毎朝。 教室に入ってもだべって、HRもだべって、授業中も…。 けど真野には、そんな暇もそんな人もいないのかも…。 て、なんで俺真野のこと。真野が…気になるんだ…? まだ、真野の噂は絶えない。 本当に、真野は人を殺したのか…?関係ないはずなのに、俺は首を突っ込む。 「今日、俺日直だから」 「おう、俺も早く帰んないと!じゃあな剛」 「あぁまた明日」 日直はめんどくさい。すぐに帰れないし、日誌を書かないといけないし。 そう言えばもうひとりの日直って…。 「真野…」 ふと前を見ると、黒板を真野が消していた。そうか…黒板消しも日直の仕事だった。てことは真野も日直!? 「廣田くん、後は私がやるから帰っていいわよ」 黒板を消しながら、真野はボソリとそう言った。 俺は日誌を書く手を止め、ふぅ…と息をついた。 「なんでお前は、そうやって自分一人で背負おうとするんだよ。俺に頼ればいいじゃん…………あの…さ、真野」 ふと、俺は一つの言葉が浮かんだ。 「お前ってほんとに、人殺したのか?」 俺の言ったその言葉に、真野は驚くことも動揺することもなかった。 ただ、黒板を消す手を止めた。 「私は人を殺したわ。母親を殺したのよ」 真野は、涼しい顔をしながらそう言った。 「聞きたい?どう殺したか」 今、教室は二人きり。 聞いていいのかわからないが、俺はコクリとうなずいた。
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