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君は知らない
「私は母親を殺した。私を産んだことで母親は死んだ。私が産まれたことが、母の死を招いた」
夕焼けが教室を染める午後5時。真野はそう言った。
「私の母親の流子は、私がおなかにできてすぐに離婚した。そして私が産まれる数日前に違う男と再婚した。そして私が産まれたことと引き換えに母は死んだ。父親である男は、酒に溺れ仕事もやめて、毎日毎日泣いたり怒ったり。そして私が物心つく頃に、私に向かってこんな言葉を浴びせた。
『私はお前なんか愛していない、お前なんか家族と思っていない。俺が愛していたのは流子だ。お前が俺を不幸にした。お前なんか産まれなければよかった。そうすれば、俺は幸せだったのに。お前が、母親を殺したんだ』って。
血も繋がってないのに、うちの母とはもう離婚したのに、その男は私を育ててくれた。今は私は一人暮らし、その男も一人で暮らしてる。
その男かもう私がいないことで新しい恋人でも探して幸せを掴んでるんじゃない?」
黒板消しを終えると、真野は俺の前の席にやってきて、一緒に日誌を書き始めた。
これは、聞いても良かったことなのか。踏み込んでよかったのか。
ただ俺は、そんな暗い過去を俺に話してどうってことない真野に驚いていた。
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