皆は知らない

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皆は知らない

真野は、今どんな思いで、毎日を過ごしているのだろうか。 「今日のHR、先生いないから学級委員のお前たちで進めてくれないか」 昼休憩、俺と真野は職員室に呼ばれた。 「なんかあるんすか?」 俺が担任に聞くと、担任は気持ち悪いほどのニタニタした笑みを浮かべた。 「実は子供が産まれそうなんだよ〜」 「へぇーおめでとうございますー(棒)」 「ちょっとは心から祝福しろ!」 ゴツンっ!俺の頭に拳が当たる。 いてっ!…たく、何なんだよ。って、真野はこの話…。 真野に視線を向けると、真野は笑っていた。 それは心からの祝福を感じる、そんな笑顔だった。 「おめでとうございます。元気な子が生まれるといいですね」 真野は先生に笑顔を向けながら、いつもより明るい声のトーンで祝福をした。 「お!?真野も祝ってくれるのか!?先生嬉しいなぁ〜」 心の底から祝福してるのか、それとも、 両親という存在を羨ましいと思っているのだろうか。 「今日は帰りのHRは先生がいないので学級委員が行います。 じゃあ早速、先生からの伝言を言いまーす」 HR。先生から渡された資料を下から適当に読んでいく。どうせ真面目に来ていない奴らばっかりだ。 そして最後に書かれた内容に、俺は少し、動揺した。 「えー…あと…」 これは言わなきゃいけないけど、言っていいのか真野の前で…。 「えっと…学校付近で、不審者などが多発しているらしいので…気をつけてください」 教室が少しずつ、ざわつき始める。唯一の救いは、この手紙を呼んだのが俺ということだ。 「じゃあこれで…」 「その不審者ってー…真野じゃねぇの?」 一人の男子がそう言って、話が途切れた。 「真野さーんどうなんですかー?」 調子に乗りやがってコイツらっ…!。こいつのこと何も知らないくせに、誰か言ってやれよ。誰かこいつを止めろよ。誰か一人だけでもい………。 そうだ…真野を知ってるのは、俺だけだ。 ドンッ!俺は拳を握り、黒板に叩きつけた。 「お前ら…何も知らねぇくせに勝手に何言ってんだよ。 真野のことを知らねぇくせに、勝手に調子こいてんじゃねぇよ。」 拳を下ろし、俺は調子こいた奴らを睨む。 「もし次誰かが喋ってみろ。俺が犯罪者になってやるよ。真野の噂の正体が俺になったって構いはしない」 教室がシーンと静になる。鳥の声が聞こえる。太陽の光が眩しい。 すると真野が俺の方を見た。 「ありがとう廣田くん、守ってくれて…ありがとう」 笑顔を向けながら真野はそう言った。少しだけ、涙が見えた。 「皆さんに私から言わなきゃいけないことがあります。 今私達の回りでは”真野冬美は人を殺した”という噂が流れています。 今、その噂の答えを言います」 待て、真野。待って! 「私は母親を殺しました。 私が産まれたことで、母親は死にました。 私なんか産まれてこなければ、母親は生きていた。 私が産まれたことと引き換えに母親は死にました。 だから私が”人を殺した”ということは本当です」 …もう、遅かった。 けど、これが真野自身で選んだことだ。
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