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まだ知らない
”真野冬花は、人を殺した”。
最近、そんな噂が校内に広まっている。
「これで帰りのHRを終わる」
姿勢、礼。こうして今日も、長い長い学校が終わった。
俺、廣田剛はぐったりとした体を起き上がらせ、カバンに教科書やらノートやらしまって帰ろうとしていた。
「あ、そうだ学級委員、職員室にこの資料持ってってくれ」
担任は教卓に乗った大量の資料を指差し、俺ともう一人の学級委員、真野冬花に言った。
げっ…なんて大量な資料…。
俺は大きなため息を付きながら教卓に向かい資料を運ぼうと思ったが、ふと見ると大量の資料は半分以下の数になっていた。
教室のドアを見ると、涼しい顔をしながら真野はもう資料を持っていき始めていた。
俺は急いで資料を手に持ち、真野を追った。
真野冬花、最近こいつは悪い意味で注目されてる。
俺の友達の間でも話題だ。
「知ってるか、剛?真野冬美は人を殺したんだってさ」
昼食中、友人の桂井勇人がぼそっと俺の耳元で言った。
「は?なんそれ」
「今話題だぜ〜。ま、根拠的なものはなさそうだけど」
「なんだそれ」
俺はふと、真野に視線を向けた。
真野は静かに箸でつまんだおかずを口へ運んでいる。
真野のやつ…自分の周りには自分のことを見ながら悪口を言ってるやつがいるっていうのに…。
感情がない、静かな女子、それが真野だった。
「真野っ…待っ…て……真野っ!!」
持ってる資料は少ないのに、走ってるのに真野に全然追いつけなかった。
走って走って、俺はやっと真野に追いついた。
「はぁはぁ…真野、行くの早すぎ」
荒い気を整えながら俺は真野に言った。
「別に、一緒に行かなくていいでしょ」
静かに、どこか冷たさを感じた。
誰とも交わろうとしない、誰にも関わろうとしない、まるで何色にも染まらない黒色のような。
「俺は別に一緒に行きたいわけじゃねぇよ、けど」
俺は真野に近づき、そして真野の持っている資料をがっと掴んで奪い、俺の持っていた資料の上に重ねた。
「お前は女なんだから、男の俺に資料やら何やら任せればいいんだよ」
今まで俺が持ってた軽い資料は、真野の持っていた資料を重ねることで一段と重くなった。真野、重かっただろうな。
「私と一緒にいないほうがいいんじゃない?」
真野はそう、静かに言った。
「え、なんで?」
よっ…と資料を持ちながら俺は真野に聞いてみた。
すると真野は少し不思議な笑みを浮かべ、ぼそっと言った。
「”真野冬美は人を殺した”。私は、犯罪者だから」
そう言って真野は俺から資料をバッと取り、俺の持っている資料または軽くなった。
一人歩き出す真野。俺はゆっくり、静かに、真野の後ろを歩く出した。
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