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「藤崎さん?」
突然呼ばれた名前に肩を震わす。公園の入り口に目を向けると見慣れた制服姿の女の子が立っていた。暗かったけど誰かはすぐにわかった。
「菊池さん?」
クラスメイトの菊池さん。いつも定期テストで一位、二位を争う頭のいい子。休み時間も本を読んでて正直近づきにくい。
ほとんど話したことのないクラスメイトとの予想外の出会いに上手く言葉を選べないでいると、菊池さんは心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫? カゼ引いちゃうよ?」
そう言って首に巻いていたマフラーを大きく広げ、あたしをくるんでくれた。ただの薄い布なのにとても温かかった。
「ごめん。ありがと」
熱くなる顔を隠そうとうつむきながらお礼を言う。ぶっきらぼうな言い方になってしまったことを後悔した。気まずくて顔を上げられない。
そんなあたしとは対照的に、菊池さんはやわらかい声をかけてくれる。
「ううん。大丈夫だよ。……本当は通り過ぎちゃおうと思ったんだけど、あんまりにも寒そうだったから」
優しさに引っ張られるように顔を上げると、目尻を下げてほほ笑んでいた。学校では見たことのない表情だった。
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