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「私は一人っ子だからピンと来ないけど、そういうこともあるんだね。私からすれば、藤崎さんっていつも明るくて楽しそうで、いいなぁって思ってたけど、こんな風に落ち込むこともあるんだね」
これは、煽られてる……?
いや、そんなはずはない。ちょっと話しただけでもすごく優しい人だって思ったし、何よりこんな寒い思いしてまで嫌みを言う必要なんてちょっともない。
能天気なあなたに悩みなんてあったのね。菊池さんを信じたい気持ちとは裏腹に、あたしの中の卑屈なところが、イヤな変換をする。
こっちが勝手に自己嫌悪に陥ってるなんて知らない菊池さんは、変わらない様子で言葉を続けた。
「うちはね、親が勉強にうるさくて。良い大学に行って、良い仕事に就きなさいって。今日も塾の帰りなんだ。だから、居づらいって気持ちはわかるなぁ。……確かにそういうのも大事だと思う。でも私は、今しかできないことをやりたいって思うの。勉強はいつになってもできるけど、教室でおしゃべりしたり放課後みんなでカラオケ行ったりするのは、大人になってからじゃできないでしょ?」
「え?」
漏れ出した意外な願望にまぬけな声が出てしまう。てっきり勉強も読書も好きでやってるものだと思っていたから。急に彼女が同い年の女の子に見えた。
「やっぱり、変かな? 昔から友だち作るの苦手で。どうすればいいのかわからないうちに高校生も半分以上過ぎちゃった」
うつむいたまま、目を薄くしてむりやり口角を上げる。あたしもよく知ってる笑い方だった。
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