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あたしにとって学校は友だちを作る場所だ。でも別に、友だちがほしかったわけじゃない。真菜の姉じゃなくて、あたしを受け入れてくれる場所がほしかっただけ。
あたしが逃げた先で偶然見つけたちょうどいい口実は、菊池さんにとって特別なものだったらしい。おかしくて鼻から笑いが抜けていく。
「じゃあさ、友だちになろう? 今日からさ」
「え? ……いいの?」
壊れたおもちゃみたいに首をひねって震えた声で聞き返してきた。
「うん。空いてる日、教えてよ。カラオケいこ。……代わりに、勉強、教えてくれない?」
「うん! もちろん!」
そう言ってきゅっと目を細めた。いつもの弱々しい声とは打って変わって、ハリのあるきれいな声だった。
返事を聞いたあと、ごく自然な流れで友だちの儀式をする。
「ねえ、明日香って呼んでいい?」
「うん。私も日菜って呼んでいい?」
「うん。もちろん」
友だちって本当は少しずつなっていくものなんだろうけど、呼び方が変わっただけで仲良くなれた気分になれるから不思議だ。
会話にひと区切りついて生まれた静寂。ただただ目が合う時間に、ふたりとも吹き出してしまう。
「……そろそろ帰ろうか」
「そうだね。心配かけちゃうもんね」
「マフラー、ありがと。うち近いから平気」
「そう? じゃあ、どういたしまして」
「じゃあね、明日香」
「うん。また明日、日菜」
どこにでもある普通の別れのあいさつだけど、あたしたちにとっては新たな一歩だった。
マフラーを返したせいで再び冷気が襲ってくる。今度は、苦しくないけど体は暖まる、そんなちょうどいい速さで走り出した。
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