交差点

6/6

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 あたしにとって学校は友だちを作る場所だ。でも別に、友だちがほしかったわけじゃない。真菜の姉じゃなくて、あたしを受け入れてくれる場所がほしかっただけ。  あたしが逃げた先で偶然見つけたちょうどいい口実は、菊池さんにとって特別なものだったらしい。おかしくて鼻から笑いが抜けていく。 「じゃあさ、友だちになろう? 今日からさ」 「え? ……いいの?」  壊れたおもちゃみたいに首をひねって震えた声で聞き返してきた。 「うん。空いてる日、教えてよ。カラオケいこ。……代わりに、勉強、教えてくれない?」 「うん! もちろん!」  そう言ってきゅっと目を細めた。いつもの弱々しい声とは打って変わって、ハリのあるきれいな声だった。  返事を聞いたあと、ごく自然な流れで友だちの儀式をする。  「ねえ、明日香って呼んでいい?」 「うん。私も日菜って呼んでいい?」 「うん。もちろん」  友だちって本当は少しずつなっていくものなんだろうけど、呼び方が変わっただけで仲良くなれた気分になれるから不思議だ。  会話にひと区切りついて生まれた静寂。ただただ目が合う時間に、ふたりとも吹き出してしまう。 「……そろそろ帰ろうか」 「そうだね。心配かけちゃうもんね」 「マフラー、ありがと。うち近いから平気」 「そう? じゃあ、どういたしまして」 「じゃあね、明日香」 「うん。また明日、日菜」  どこにでもある普通の別れのあいさつだけど、あたしたちにとっては新たな一歩だった。  マフラーを返したせいで再び冷気が襲ってくる。今度は、苦しくないけど体は暖まる、そんなちょうどいい速さで走り出した。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加