全力で走り出す瞬間

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 店内には仕事帰りのOLやサラリーマン、年金暮らしのお年寄りらしき買い物客などが、六時を過ぎているというのに思いのほかうろついている。同様にカゴを片手に私も食品コーナーをうろつく。  最初に総菜コーナーをおとずれた。  唐揚げ弁当、トンカツ弁当、ハンバーグ弁当など定番の弁当が山積みされている。その手前に単品で同じように唐揚げや天ぷら、お好み焼きとまるで居酒屋メニューのようなパックが並んでいる。こちらはそれほど残っていない。  さてどうするか。  唐揚げを手に取る。生唾が自然と出てくるのがわかる。唐揚げは大好物で一昨日も食べたが、一日空いたことでリセットされたようだ。焼き鳥もある。  なんとも悩ましい。  ひとまず唐揚げのパックを元に戻す。もっとよく考えよう。  夕方に買い物するのは奥さん連中が多い。まだこうした買い物に慣れない私には少し抵抗があった。  周りの視線が気になり、十メートルほど先にある鮮魚コーナーに移動する。  こちらは刺身が並んでいる。ヒラソ、ブリ、サーモン、タイ、マグロは中トロだ。さすがマグロは中トロだけあって目玉が飛び出るような値札が貼られている。とても手は出せない。  刺身はそれぞれ数パック残っていた。タイなんかどうかな。別にめでたいわけではないけれど、生まれてくる赤ん坊の前祝い的な気分でタイのパックに目をやる。  一パックしかない。  いま買わないとすぐに売り切れるかもしれない。  ……悩む。  鮮魚コーナーと総菜コーナーを行ったり来たり。  晩ごはんをどっちにするか迷う。  とりあえずいったん落ち着こう。  カゴを置き、二階の売場に上った。
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