CASE4

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CASE4

鏡は自宅のベッドで体を起こしていた。眠い目をこすり呼吸を整える。 「また同じ夢…」 どうやらまた同じ夢でも見たようだ。かぶりを振り準備をしようとする。すると写真立てが倒れた。鏡は写真立てを元の位置に直す。 「お母さん、今日も行ってくるね」 鏡は鮮見が写っている写真立てにそう言い自宅を後にする。 Under Dの部屋では鏡を除く男4人が暇を持て余していた。 「暇なんだよなぁ。この時間」 「まぁ良いんじゃないですか。こういう日があっても」 瀞枝は新聞を熱心に読んでいる。氷川が後ろから声をかけた。 「トロさん。何か面白い記事ありました?」 「ああ、中々興味深い記事だ」 江利賀と綺堂も瀞枝の元にやって来る。瀞枝はその記事のタイトルを読み上げた。 「ここ最近、巷で有名になっているパパ活って奴か」 「結構事件になっているケースも多いですからね」 「援助交際と昔は言ったがな。今はSNSも流行しており、複雑化している」 「パパ活を巡ってトラブルになる事もある。俺も昔取材したことがあったけど、中々ドロドロした感じだったよ」 そんな中、綺堂は不意に鏡の姿が浮かんだ。 「まさか、あの小娘パパ活とか変な事やってないだろうな」 「そんな事する訳ないでしょ。彼女は人間不信になりやすいタイプなんだから」 その鏡は明智大学の近くにあるスイーツ店『エタンドル』にいた。どこかその表情は冴えない。 「どうしたの?」 そこに現れたのは店長である深町茉美だ。彼女は店長でありながら、ホワイトハッカーとしての一面も持つ。鏡にハッキングを覚えさせたのも彼女だ。鏡にいちごパフェを提供した。 「ていうか、こんな高そうなバッグ持ってたっけ?結構高級品よ」 「友達から貰ったんです。でも不信感っていうか、胸がざわつくんです」 「詳しく説明してくれるかしら?」 鏡はスマホを取り出して、1人の女性の顔写真を表示する。 「成宮凛々子。彼女は私の親友です」 「見た感じはどこにでもいる普通の女の子ね」 「はい。出会った時は地味で穏やかな印象だったんです。すぐに意気投合したんですが、ここ最近彼女の様子が少し変なんです」 「何がどうなったの?」 「化粧が派手になってこういうブランド品を持ち歩くようになったんです。以前の彼女とは全くの別人です」 深町は少し悩んだ末に答える。 「まさか、何やら良くない感じがするわね…」 「え…」 「急に派手な化粧やファッションになったりブランド志向になるような女ほど怪しいものは無いわ。まぁあくまでも女の勘だけど」 「それって…?」 「パトロン、いわゆる金を出して援助する人がいるって事よ。まぁ本人に聞いてみるのが一番じゃないかしら」 鏡はバッグを無言で眺めていた。 一方、Under Dでは残った4人が調査対象者に関してミーティングを開始していた。倉木と志紋もそこに同席している。 「由城秀。彼が今回の調査対象者です」 写真を見た江利賀は一言呟く。 「おおっ、悪そうな顔。調べ甲斐がありそうだ」 「いつもの雰囲気じゃ無さそうな感じだ。何かヤバい予感がする」 「ええ、氷川さんと同じく一筋縄じゃいかない気がします」 氷川は由城の顔を見ながら言う。 「そんな事がわかるんですか」 「元週刊誌記者の勘や経験って奴だ」 国馬はモニターを操作して、とある店を表示する。それはガールズバーだった。綺堂と瀞枝は反応を見せる。 「トロさん、あのガールズバーって…」 「ああ、出入りした事がある。無論捜査の一環としてだが」 「確か政界の重要な役人とかが出入りしてるって専らの噂だ。同業者の中には踏み込みすぎて身を滅ぼした人間が少なからずいる」 「氷川君が仰いました様に、彼が経営しているガールズバー『シュー』ではVIPが多数出入りしている経歴が沢山残されています」 「警察でも踏み込めない領域、何か絶対に裏がありますね」 由城はそのガールズバー『シュー』にいた。そこに蛾濠がやって来た。 「へぇ。こんな事してるんだ」 「ああ、ここなら尚の事バレることは無い」 由城は鏡の写真を取り出し、ぐしゃぐしゃにする。そしてその場に放り投げた。 「あの女の友人がここで働いているらしいからな。少しからかってやるか」 由城は卑しい笑みを浮かべる。その目つきは獲物を狩るハンターの様だった。 翌日、鏡は1人で学食を食べていた。そこに成宮が嬉しそうにやって来た。手には化粧品を持っている。 「鏡さん、今度は化粧品持ってきたわ」 「成宮さん、貴方いつからブランド志向になったの」 「何よ、嫉妬してんの?」 「そうじゃなくて、危険すぎるわ。いきなり高級品を持ってきて」 「じゃあ、もう貴方とは絶交よ。生きている世界が私とは違うから」 成宮はその場を去っていく。鏡はその姿を黙って見ていた。 一人でunder Dの部屋に戻ってきた鏡はパソコンを動かし、成宮の動きを探っていた。そこに江利賀達4人が入ってきた。 「あれ、いたんだ」 「はい」 江利賀は鏡が持ってきたバッグを手に取る。 「これ、高級ブランド品だろ」 「ええ、私の友人がくれたんですが…」 「それがどうした」 「急にブランド志向になって変になりました。本来そんな人じゃなかったんですけど…」 綺堂は呆れたように溜息をつく。 「そんな事で悩んでんのか。朱に交われば赤くなるって言うだろ。放っておけ」 「ですが――」 「いちいち気にしすぎだ。お前は優しすぎる。この組織にいる以上はそんな甘い考えは捨てろ」 綺堂と鏡の間に何か不穏な空気が漂っている。瀞枝は話題を変えた。 「それで、今回のターゲットなんだけどよ。中々尻尾を出さないんだ」 「誰なんですか?」 「由城秀。ガールズバーのオーナーだ」 鏡は画面を切り替え由城のGPSをハッキングしようとするが、エラーが出た。鏡は激しく動揺している。 「どうして…」 「かなりヤバい奴って事か。あの写真からしてそんな気はしていた」 「成程、確かに一筋縄じゃいかない気がするな」 その夜、成宮はガールズバー『シュー』に入っていった。鏡がその様子を尾行している。すると突如として何者からか殴られた。 「何だ、この女!」 「勝手に入ってきてんじゃねぇよ!」 鏡はただひたすら黒い服を着た人間から殴られている。そこにやってきたのは倉木と志紋だった。 「やめなさい!」 「警察だ!動くな!」 「ヤバッ!警察がいるなんて聞いてないぜ!」 男達は蜘蛛の子を散らすように去っていく。 「志紋、鏡さんの事を頼む。私は奴らを追いかける」 「わかりました」 志紋は鏡に声をかけるも意識がない。 「鏡さん!しっかりして下さい!聞こえますか!」 「すいません…襲われました…」 消えたテレビのように鏡の意識はそこで途絶えた。 翌日、Under Dの部屋には怒声が響いていた。よく見れば綺堂が鏡を叱責していた。 「馬鹿野郎!」 「…」 「非情になれってあれだけ言っただろう!ヘタクソな尾行とかしやがって!」 「その辺で止めといたらどうだ。襲った犯人を逮捕できたんだから」 「そういう問題じゃねぇんだよ!」 綺堂の怒りを諫めるように瀞枝がフォローに入るも、今の綺堂には何も聞こえていないようだった。 「良いか、これだけは言っておくぞ。俺達は死ぬ覚悟が出来てんだ。女は黙って引き籠っていれば良いんだ。わかったか!」 鏡は何も言わず黙っている。そんな鏡を見て綺堂はまたも怒った。 「黙っていないで何とか言えよ!このチビが!」 すると鏡は綺堂の足を思いっきり踏んづけた。鏡は部屋を出ていく。綺堂は痛みに悶絶している。 「あの小娘が…!」 綺堂は怒りに震えている。今度は氷川が腹を目掛けてパンチを食らわせた。 「綺堂、あの言い方はいくら何でもねぇだろ」 「お前も小娘の事を庇うのか!」 「一言もそんな事は言ってない。確かに独断行動したアイツも論外だ。だがそれは本当に親友を救いたかったからだろう。今のお前の言い方はそんな彼女の尊厳を踏みにじったも同然だ」 綺堂と氷川はお互いに顔を見合わせている。そこに志紋がやって来た。 「一体、鏡さんの身に何があったんですか。涙目になりながら出ていきましたけど」 「ああ、この器の小さい男が昨日の事で怒っちまったんだ。かなり酷い言葉を使ってな。そんな事より昨日はありがとう。助かったよ」 「はい」 志紋は綺堂に詰め寄る。 「鏡さんから大体の事は聞きました。貴方はなんて事を言うんですか!」 「お前には関係ないだろう。ひっこんでいろ!」 「ああ、そうですか。じゃあ勝手にして下さい。でも謝らないと後悔するのは自分ですよ」 志紋は部屋から退出していく。部屋の雰囲気は殺伐としていて最悪の状態である。 その後、鏡は1人で共にエタンドルにやって来た。 「それで、私に泣きついて来たって訳ね」 「すいません…」 「良いのよ。貴方が無事である事が私にとっての一番なんだから」 深町は笑顔だ。対照的に鏡の表情は沈んだままだ。 「私、やっぱり向いてなかったんですか…?」 「まぁ、あの怒った人も何か思うとこあったんじゃないかしら?」 「私は非情になりきれてないって厳しく言われました。優しすぎていけないんでしょうか…」 深町は大きく息を吐いて答える。 「その優しさこそが貴方らしさじゃない?自分のスタイルを捨てる必要はないわ。江利賀君だって壮絶な過去があったのに四六時中あんな調子じゃない」 「…」 「とにかく貴方はその優しさだけは捨てちゃいけないわ。それを無くしたらもう貴方じゃなくなるから」 「はい」 泣きじゃくる鏡を深町は温かく抱きしめていた。 2日後、誰もいないUnder Dの部屋で綺堂は早くからパソコンを操作していた。しかしログインすることができず相当苛立っている。 「やっぱりあの小娘がいなきゃわからねぇ…」 綺堂はそう呟き、何度もログインを試みるもアクセスできない。机を思いっきり叩く。江利賀達がやってきたのはその時だった。 「本当は気にしてるんじゃないですか?鏡さんを傷つけてしまった事に」 「別に」 綺堂はそそくさと去ろうとする。すると瀞枝が綺堂の肩を掴み遮った。次の瞬間、瀞枝は綺堂に平手打ちをお見舞いした。突然の出来事に綺堂は唖然としている。 「馬鹿者!」 「トロさん…⁉」 「いつまでうだうだ悩んでいるつもりなんだ!そんな暇があったらさっさと謝ってこい!」 「くっ…」 「俺も気付いていたよ。お前が鏡に対してあんなに厳しい態度をとる理由、それはお前の妹に重ねてしまうからじゃないのか?」 「何だと…?」 「行って来いよ。本当は心配なんだろ?」 氷川に促された綺堂は振り向き、力なく部屋を出て行った。国馬が入れ違いで部屋に入ってくる。 「綺堂さんの過去って…?」 「国馬さん、ランボーにも綺堂の過去を話した方が良いじゃないのか?」 「そうですね」 国馬は綺堂の過去を話し始めた。 「綺堂啓治。彼は公安警察のエースであり優秀なエリートでした。しかし5年前、とある事がきっかけで退職する事になりました」 「その事件名は『千葉商業施設通り魔事件』だったはず。俺も気になって調べた事がある。そうしたら被害者は綺堂の妹だった」 「氷川君が言った通り、綺堂君の妹が事件で犠牲になりました。綺堂君は取り調べでその犯人を半殺しにしてしまいました」 「無論、そういうことをすれば警察だって黙っちゃいないがな。罷免になるのは免れたが、あいつは出世コースから大きく外れる事になった」 綺堂の壮絶な過去に江利賀は驚き、声が出ない。 「恐らく、今でも悔やんでるでしょう。妹さんが巻き込まれた事件で自分の人生が狂ってしまったことを」 綺堂はただ一人、墓の前に来ていた。目を閉じて静かに手を合わせる。そこに倉木がやって来た。 「綺堂さん。このままにしておくつもりじゃないですよね」 「何故ここがわかった…⁉」 「鏡さんが突き止めたんです。もしかしたらここにいるだろうって」 綺堂は気にいらなかったか、舌打ちをする。 「もちろん放っておくわけがないだろ」 「当ても無いのにどうするんですか?」 「…」 綺堂は答えられず黙っている。倉木は憐れむような目で綺堂を見ている。 「落ちぶれましたか。公安警察の元エースが」 「ああ?誰に向かって物言ってんだ!」 「その大口は鏡さんに謝ってからにしたらどうですか?彼女ならもしかしたらここにいるかもしれませんよ」 倉木は綺堂に1枚の名刺を渡す。綺堂は目を見開いている。 「スイーツ店…?」 「そこの店長さん、鏡さんとは面識がありますから」 倉木は去っていく。綺堂は渡された名刺を未だ眺めていた。 「それで、私に真珠ちゃんの居場所を聞きに来たって事?ここには何日も来てないわよ」 深町は呆れたように言う。 「貴方には真珠ちゃんの事を知ってもらわないといけないかしらね。なぜハッカーになる道を選んだのかも含めてね」 深町は綺堂にコーヒーを差し出して語り始めた。 「丁度、1年くらい前に彼女は初めてこの店にやって来た。でもどうか人間を嫌っているような感じがして周りを寄せ付けないような雰囲気を出してたわ。そんな中、私だけには声をかけてくれた」 「どうしてだ…?」 「私の魅力に気づいてくれたから?」 「真面目に答えてくれませんか」 ふざけている深町に綺堂は苛立ちを募らせる。 「おっと失礼。でもそんな中、彼女が誘拐される事件が起きて、またしても心を閉ざしかけていた。私はその時にハッカーになってみないかって声をかけてみた。真珠ちゃんはやるって返事した」 「迷いなくアイツが選んだ道って訳か…」 「正直不安な面もあったわ。私自身も危険な道に引きずり込んだ訳だし、二度と後戻りが出来ないのはわかっていたけど、そんな心配を他所に彼女は巷では有名になっていたクラッカーを捕まえる大手柄をやってのけた」 綺堂は深町の話を黙って聞いている。 「まぁ、今となっては危険な所に預けられたわね。それでも彼女の実力を買ってくれたからだと思うけど、もしもの事があったらと思うと心配になるわ」 綺堂は立ち上がる。 「あいつは気が強い。だから今回の事も相談できなかった」 「彼女はセンチメンタルな一面もありますから」 「鏡真珠は、チームに絶対になくてはならない存在だ。俺の代わりなんてものは幾らでもいる。だけど彼女の代わりは絶対いない。アイツの情報収集能力は誰にも真似はできない。本気で俺達は期待している」 「褒めてくれてどうもありがとう。師匠として嬉しい限りだわ。これを彼女の差し入れとして持って行って。私がツケにしておくから」 綺堂は箱を受け取り、一礼をして店を出て行った。 鏡は自宅にずっと引き籠ったままだった。パソコンを操作してはいるものの、どこか溜息ばかりで暗い気分を引き摺った状態だ。その時、チャイムが鳴った。鏡は玄関に行きドアを開ける。開けたドアの先には綺堂が立っていた。鏡は少し固まる。 「綺堂さん…?」 すると綺堂は鏡に向かって頭を下げた。突然の出来事に鏡は困惑してる。 「申し訳なかった。俺が悪態を突いた事は決して許される事ではない」 「いえ、私の方こそすみませんでした。誰にも相談せず自分一人だけで勝手に行動してチームの皆さんに迷惑をかけてしまったんですから」 綺堂は差し入れの箱を鏡に手渡す。 「これもらって良いんですか?」 「お前の行きつけの店の店長がくれたんだ。ツケ払いにしてくれるって言ってな。鏡、お前はひとりじゃない。自分で何でも背負おうとするな。何の為に俺達や国馬さんがついていると思っている」 綺堂はそう言い、部屋に入る。パソコンがある事に気づいた。 「調べてたのか」 「はい。どうしても気になる事があるんです」 「言ってみろ」 「凛々子のGPSをハッキングしてたんです。そうしたらとある店についた瞬間にGPSの情報が途絶えました。その店はこれです」 綺堂は鏡のパソコンを食い入るように見る。その店は『シュー』だった。 「だからか…あの時に感じた違和感は」 「どういう事ですか?」 「気づかなかったか?由城の事を調べようとした時にエラーが出たよな」 「そういえば…」 「もしかすると何かの電波を妨害しているのか…?」 その時、鏡のスマートフォンが鳴った。相手は成宮だ。鏡はおずおずとその電話に出る。 「凛々子…?」 『残念でした!お前の友達は誘拐したぜ!』 電話から聞こえたのは男性の声だった。鏡は声を荒げる。 「どういう事…⁉凛々子は無事なの⁉」 『電波の届かない所で眠ってるぜ。お前に助けられるかな?哀れなプリンセス』 ただならぬ気配を察したか綺堂はスマートフォンを寄越せと言わんばかりに鏡から奪い取る。 「どういうつもりだ!テメェ!」 『おお?仲間がいたのか、まぁ助けられないと思うけどな。ハッハッハ!』 電話はそこで切れた。綺堂はスマホを返す。 「電波の届かない所…?」 「それはあの店か…?だが奴がわざわざヒントになるような事を…?」 綺堂は外へ出ようと準備をする。鏡が声をかける。 「待ってください。私も一緒に行きます」 「お前はここにいろ。奴は危険すぎる。俺達ですら手に負えるかわからないんぞ」 「それでも食い下がるつもりはありません。私もUnder Dの一員ですから」 綺堂は少し息を吐き答える。 「わかった。だが無茶はするなよ」 「はい」 鏡の表情は引き締まっている。綺堂は頷き、一緒に外へ出た。 その頃、Under Dの部屋にいた3人は綺堂からの連絡を受けていた。 「綺堂、ちゃんと仲直りは出来たのか?」 『ええ、鏡も一緒に同行してます。本当は止めておきたかったですが彼女がどうしてもって言うんで』 「了解。あの店で間違いなさそうだな?」 『電波の届かない所って奴が自らヒントを差し出しました。恐らく罠だと思いますが…』 「俺達も今から向かいます」 3人は一斉に部屋から出ていく。出る前に江利賀は国馬に声をかける。 「国馬さん。後方支援はよろしくお願いします」 「わかりました」 国馬はパソコンを操作し、モニターを切り替えていく。 『シュー』では成宮が磔状態で囚われの身になっていた。黒服の1人が声をかける。 「どうだ?最高の気分だろ?」 「言いわけないでしょ!早く離して!」 「ここの部屋は防音も完備されているからなぁ。どんなに大声出しても聞こえないんだよ!大きな声で叫んでみなよ!」 「助けて!」 「バカか。大声出しても聞こえないって言ってんだろ!」 その時、ドアが乱雑に開けられた。綺堂がドアを蹴り飛ばし開けたのだ。成宮は鏡と目が合った。 「俺には丸聞こえだけどな!」 「凛々子!」 「鏡さん…どうして…?」 「心配だからに決まってるでしょ」 「どうやってここを突き止めたんだ…⁉」 思わぬ来客に黒服は全員戸惑っている。すると江利賀がやって来て語りだした。 「俺達のボスが突き止めたんだよ。ジャマーをハッキングするのはあの人にとっちゃあ簡単な事」 「そんな事出来たのか…」 『ええ、パソコンに触るのは久々でしたけどね』 「もう逃げられないぜ。観念しやがれ」 「クソ!やっちまえ」 その言葉に黒服は全員襲い掛かってきた。江利賀と綺堂は応戦する。 「俺達がここを食い止める。お前は先にここを脱出しろ!」 「そんな…」 「友人を救いたいんだろ!お前の思いを俺たちは無駄にはしない!」 綺堂の力強い言葉に後押しされた鏡は成宮の所に駆け寄っていく。鏡は成宮を救出する事に成功した。 「なんで…?」 「話は後!とにかくここを出るわよ!」 鏡は成宮の腕を引っ張って部屋を出て行く。江利賀と綺堂は黒服を食い止めている。 必死に逃げる2人の前に立ったのは由城だ。拳銃を手にしている。 「逃げられるとでも思ったか。ここでもう終わりだ」 由城は冷酷に引き金をひこうとする。すると何者かが2人掛かりで両腕を掴んだ。 「邪魔だ!」 「そうはいくかよ!思い通りになると思うなよ!」 「名脇役を忘れてもらっちゃ困るぜ」 由城の腕を掴んでいたのは氷川と瀞枝だった。氷川は由城が持っている拳銃を払い飛ばした。 「氷川さん!トロさん!」 「とにかく出口まで逃げろ!倉木さんと志紋も近くにいるはずだ!」 「後の事にまかせなさい」 鏡は由城の脇をすり抜けるかのように逃げていく。しばらくして2人の姿は由城の視界から消えた。 「テメェら、調子に乗ってんじゃねぇ!」 由城は2人を振り解き、強烈な一撃を浴びせた。2人は吹っ飛ばされた。 「コイツ、只者じゃねぇ…⁉」 「作戦変更だ。まずは貴様等から消してやる!」 由城はナイフを手に取り2人に近付いて行く。その時、江利賀と綺堂がやって来た。 「チッ!まだ仲間がいたのか」 「消されるのはお前だ!」 「仕方がねぇ、ここは一先ず撤退だ!」 由城は発煙弾を江利賀達に投げて逃げて行った。由城の姿は見えなくなった。 「あの野郎、どこに行きやがった!」 「待て、鏡の無事が先だ。聞こえるか!」 『私は無事です。凛々子も保護されました』 「良かった…」 綺堂はその場にへたり込んだ。そして笑みを浮かべていた。 鏡と成宮は倉木に保護されていた。成宮が尋ねる。 「何で助けたの…?あんなに酷い事言ったのに…」 「放っておけないからに決まってるでしょ」 「ごめんね…」 成宮は泣きじゃくる。そんな姿を見て鏡は成宮を抱きしめていた。倉木の元に志紋が駆け寄る。 「倉木さん、由城は…」 「取り逃がした。引き続きマークをする。とにかく奴等を事情聴取するぞ」 「わかりました」 アジトに戻ってきた由城は怒りが収まらなかった。近くにある物をひたすらに破壊している。そんな由城を見て蛾堀と庵部は嘲笑している。 「あーあ、バカだねぇ。そればかりか敵に本拠地を知られるだなんて。大失態も良いとこじゃない?」 「君にはセンスがないんだよ。初めから無理だと思ったけどさ」 由城は庵部の胸倉を掴む。庵部はズボンのポケットから何かを取り出した。 「何だそれは…⁉」 「爆弾だよ。小型だけど威力は抜群だ。そこら辺の物全て火達磨さ」 「もう、あの子を消しちゃうしかないでしょ?ドカーンって驚かせてね?まぁ貴方には期待してないけど。アハハハ!」 蛾濠は耳元で囁く。由城は小型爆弾を庵部から奪い取りアジトから出て行った。 翌日、Under Dの部屋にはお菓子の差し入れがあった。全員が口にしている。 「皆さん。ありがとうございました」 「これからも頼むぜ。お嬢」 「はい」 鏡は力強く返事をする。 「それにしても国馬さん、驚きですよ。あんなスキルを隠し持っていたなんて」 「隠していてすみません」 国馬は笑顔を見せて謝る。鏡が国馬に話を振る。 「え、国馬さんってハッカーだったんですか?」 「ハッカーではございませんよ。パソコンを使ってサポートしていただけです」 国馬は鏡の元に近付く。 「鏡さん、貴方の情報収集能力は誰にも真似できません。私の後釜としてこれからも頼りにしてます」 国馬は部屋から退出する。鏡は国馬の背中に向かって礼をする。 「良かったじゃないか。国馬さんから認められて」 「お前のパソコンスキル信じているからな」 「でも、無茶はしちゃダメだぞ」 「はい。これからもよろしくお願いします」 江利賀もフッと笑う。また穏やかな日常が戻ろうとしていた。
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