CASE5

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CASE5

明智大学にやって来た鏡は門をくぐる。そこにシルクハットを着けた黒い服の男とすれ違った。鏡は気にせずに通っていく。 「鏡真珠…!今度こそお前の大事なものを消し飛ばしてやる…!」 シルクハットを付けたその男は由城だった。手にしているのはスイッチだ。由城はそのスイッチを笑みを浮かべながら押す。大学構内に爆発音が響き渡った。 「アデュー。鏡真珠」 由城はそう呟きながら去っていく。しばらくして不気味な笑いを浮かべていた。 神奈川県警察本部長室では中川が倉木を呼び出していた。江利賀の写真を見せつける。 「江利賀亜嵐。彼は危険な存在であり、組織の時限爆弾だ。一刻でも早く排除した方が君の身の為でしょう」 「貴方も国馬さんと同じ意見ですか。言葉を返すようですが、彼の存在は組織にとって無くてはならない存在。彼の変わりは誰一人としていません」 「ほう、口が減らないですね。そういう所は貴方の父親と全くそっくりですよ」 「褒めていただき光栄です」 「まぁいいでしょう。だが、彼に万が一の事があった場合は貴方に責任を取って頂きますよ」 「そんなもの言われるまでもありませんよ。彼と私は一心同体ですから」 倉木は県警本部長室を去っていく。すると志紋が駆け寄ってきた。志紋の表情は何やら青ざめている。 「何があった⁉」 「鏡さんから今連絡がありました。明智大学が爆破されたようです!」 「何だと…⁉」 その時、倉木のスマホに着信が入った。相手は鏡からだ。 「鏡さん⁉無事ですか⁉」 『はい、私は』 「良かった…」 倉木は安堵の表情を浮かべる。そしてすぐに表情を切り替え鏡に尋ねる。 「何か心当たりはありそうか?」 『大学の門に来た時にシルクハットを着た黒い服の男とすれ違いました』 「わかった」 電話はそこで切れた。 「志紋は江利賀君達に伝えてくれ。私は一人で現場に行く」 「わかりました」 一方、Under Dの部屋ではのんびりとした空気が漂っていた。 「お嬢は大学に行っているのか。俺も大学進学したかったなぁ」 「トロさんって高卒なんですね」 「ああ。まぁ警察官になるだけであれば、高卒以上の学歴があれば十分だがな」 瀞枝はしみじみと言う。 「そういえば亜嵐、鏡はお前と同じ大学に通ってるらしいな」 「ええ、ビックリですよ」 「ちゃんとフォローしてあげなよ。先輩」 軽い会話の後、江利賀はテレビをつける。 『速報です。たった今、明智大学で爆破事件が発生しました。警察や消防が対応に当たっています』 リモコンが江利賀の手から落ちた。4人は茫然としている。 「どういう事だ…!」 江利賀が声をあげる。そこに志紋がやって来た。走ってきたのか呼吸が荒い。 「おお、ビックリした。廊下は走っちゃダメだと先生から学ばなかったか?」 「トロさん。そんなジョーク言ってる暇なんてありませんよ」 「用件は明智大学の爆破事件だろ?俺達も今から向かう。お嬢の事が心配だ」 4人は一斉に部屋から出て行った。志紋は慌てて追いかける。 アジトに戻ってきた由城はテレビで爆破事件のニュースを見ていた。そこに庵部がやって来た。 「なんだ、いたのか庵部君」 「いたのかって、こちらのセリフですよ。仕事はやってきたんですか?秀君」 「この映像の見ての通りだろ。これで文句はねぇよなぁ?」 庵部は振り返り部屋を出ていく。 「どこへ行く」 「ちょっと私も前線に赴きたいと思いましてね。少し戦況を面白くしてみましょうか」 「勝手にしろ」 由城は近くに置いている椅子にドカッと座る。 明智大学では倉木が1人で避難誘導の対応をしていた。そこに他のメンバーが揃ってやってきた。 「倉木さん、状況は?」 「武装した連中が大学にいっぱいいる。下手に近づけない」 「鏡は一体どうしたんですか」 「この辺にはいない。どこかに隠れているとは思うが…」 「とにかく鏡を探し出すぞ」 綺堂達は動き出す。江利賀はそれを制した。 「待ってください。闇雲に探すと武装集団から命を奪われますよ」 「だからって、彼女がいそうな場所はあるのかよ?」 「ありますよ。なんたって俺は先輩ですから。この大学にはごく一部の人しか知らない秘密基地があるんで」 倉木は何かピンと来たか、綺堂達に指示を出す。 「綺堂さん達は武装集団を制圧して下さい。私は江利賀君と共にそこに向かいます」 「わかりました」 「頼んだぞ、先輩」 綺堂達は大学構内に入っていく。 「彼女を迎えに行きますか、倉木さん」 「ええ。きっとそこにいるでしょう」 鏡は一人で秘密基地にてパソコンを操作していた。モニターを切り替えてシルクハットをつけた黒い服の男を探しているが、中々見つからない。鏡の表情に焦りが生じている。すると突然、外から鍵が開けられ、ドアが開いた。鏡は咄嗟に机の下に隠れる。 「やはりここにいたか…」 入ってきたのは江利賀と倉木だった。2人はホッとしている。 「脅かさないでくださいよ…」 「済まなかったな。とにかく良かった。鏡さんが無事で」 鏡は安堵の表情を浮かべる。 「それよりも私がどうしてここにいるってわかったんですか?」 「先輩だからさ。何かあった時はここにいるだろうと思ってたよ。何せここの秘密基地の鍵は未だに持っているからな」 「それで、特定出来たか」 「まだ特定に至ってません」 3人はモニターの側に近寄る。江利賀が鏡に指示を出す。 「特定できる場所は1つ。門のカメラの防犯カメラだ。そこをピンポイントでハッキングするんだ」 「わかりました」 江利賀の指示を受け鏡はパソコンを操作する手を早める。秘密基地にはキーボードを叩く音だけが響いていた。 一方、綺堂達は武装集団を全て退治した後だった。するとそこに1人の男がやってきた。それは庵部だった。 「もうお疲れですか?」 「誰だ!」 庵部はわざとらしく両手を広げて挑発する。 「まさか、貴方方の顔をまた見るとは思ってませんでしたよ。綺堂敬冶、瀞枝聖也、氷川祐一」 「お前…⁉なんで俺達の名前を知っているんだ…⁉」 「お前の事は見たこともないぞ」 「忘れましたか…?私達『カポネ』の事を」 その言葉に綺堂達は動揺する。 「お前がまさか…⁉」 「ここであったが100年目。私という人間は非常に幸福だ」 「ふざけるな!俺達の人生を狂わせておいて何が幸福だ!」 「現実を見たらどうですか?私のように心のどこかに闇を抱えている人間は大勢いる。貴方達もそうでしょう?」 「お前と一緒にするな…!」 「御託はもういいでしょう。この男が全てを終わらせるのですから」 庵部はフィンガースナップをする。すると黒いスーツを着た男がやって来た。「紹介してあげましょう。この男は最強のボディガードして知られているSP。我々に楯突いた事を後悔させてあげますよ!」 庵部はその場を去っていく。それを追おうとする綺堂達の前に男が立ちはだかる。瀞枝は少しも怯まずに声をかける。 「まさかここで会うと思ってなかったな。能条和敏。お前はここまで堕ちたか」 その言葉を聞いた瞬間氷川はその男を何処かで見た事がリアクションを見せる。 「能条和敏、国家最強クラスのSPだ。こんな所で何をしてんだ?」 「フン。お前等ごときに語るのは時間の無駄だ。庵部め、手間をかけさせおって」 能条は腕を鳴らす。すると突然襲い掛かってきた。綺堂達は応戦する。 一方、鏡はハッキングした防犯カメラから黒い服を着た男を特定した所だった。 「あの男…」 「こいつが爆弾騒ぎの犯人って事か」 モニターが映し出したのは由城だった。 「友達を誘拐するだけじゃ飽き足らず、今度は大学を直で破壊しに来たか。クソッ!なめやがって!」 江利賀は苛立ちを見せる。 「まさか、由城は鏡さんをターゲットに選んだ…?」 「私が標的ってどういうことですか…?」 「推測に過ぎないが、奴がこういうアクションをする辺り何かあると思うのは――」 その話は江利賀のスマートフォンが鳴った事で話の腰を折られた。江利賀はそのスマホに出る。 「はい、江利賀」 『大変です!今、氷川さん達が応戦中です!すぐに援護に来て頂けますか!』 「いや、俺は行かないよ」 『どうしてですか!貴方はそんなに薄情な人じゃないでしょう!3人が危ないんですよ?』 「あの3人を信じてるからな。そんなにあっさりやられるなんて俺は思っちゃいない。知恵と工夫を凝らし何とかするでしょ」 『そうでしょうか…』 「鏡は無事だという事は伝えておいてくれよ。兎に角、お前もあの3人の役に立ちなよ。ポンコツ警察官」 江利賀は電話を切った。倉木が尋ねる。 「良かったのか?援護に行かなくて」 「大丈夫でしょ。俺より数多くの修羅場を通り抜けてきた面々だから。俺は仲間を信じる」 「仲間を信じる所はお前のらしさって奴か。全く変わっていないな」 江利賀と倉木は互いに笑みを浮かべる。つられて鏡も微笑んだ。 一方、3人は能条に苦戦を強いられていた。3人がかりでも敵わないのだ。そこに志紋がやって来た。応戦するが、男女の体格差は埋め難く、あっという間に吹っ飛ばされた。何度も向かっていくがその度に吹っ飛ばされる。 「馬鹿野郎!無茶するな!」 「そうはいきませんよ…!目の前の悪は絶対に倒さなければ私が警察である資格はありませんから…!」 「それよりもランボーはどうした?」 「呼び出しましたが、行かないと言われました」 「はぁ⁉どういう事だよ⁉」 「皆さんの事を信じているだそうです。本当にあの軽い口調からは信用できませんけど」 顔を見合わせて笑いながら3人は立ち上がる。 「全く、しょうがねぇな。あの野郎は」 「この状況、無茶というより無謀ですけどね」 「久々に無茶してみますか。俺達Under Dの古参メンバーである俺達が」 3人は一斉に能条に向かっていく。そして三角形の形で能条を囲んだ。瀞枝と氷川が能条の腕を羽交い絞めした。機を逃さず綺堂が突っ込んでいく。綺堂は携帯電話を能条の首に当てた。 「そんな玩具を使って何のつもりだ?」 「こうしてやるのさ。くたばれ」 すると突然、能条の体が崩れ落ちた。綺堂が使ったのは携帯電話型のスタンガンだった。能条は痛みに悶絶している。 「卑怯だぞ…!貴様ら…!」 「あんなクサレ連中に手を貸したお前には言われたくないな。まともに戦って勝てないのは明らかに決まってんだろ。卑怯上等だよ」 志紋は能条に手錠をかける。 「能条和敏、貴方を逮捕します」 連行する前に志紋は振り返り、3人に告げた。 「それと、鏡さんは無事でしたよ」 その言葉に3人は穏やかな表情を浮かべていた。 カポネのアジトに戻ってきた庵部は能条が逮捕された事を知ることになった。 「へッ、何が最強のSPだ。簡単に逮捕されているじゃないか。大滑稽だよ」 「所詮奴など捨て石。最初から期待していない」 「使えない奴は切り捨てるってか。ああ可哀そう。だから人望無いんだよ」 その言葉に庵部はキレた。振り返ってパンチを繰り出すも由城が受け止めた。 「ダメじゃないか。庵部君。クールな君が手をあげるなんて」 「君のそういう短気な所が私は嫌いだ。直した方が身の為でしょう?」 由城は庵部を突き飛ばす。庵部はよろめいた。 「お前は非力で身体の弱いお坊ちゃまだ。現実を見とけよ」 「その言葉はそっくり返してあげますよ。君はもう既に指名手配の身分だ。そんな人間と一緒にいるのなんて不愉快だ」 「出鱈目なこと言ってんじゃねぇぞ!がり勉野郎!」 「誰が出鱈目な事を言うんです?笑わせないで頂きたい。君の方こそ大滑稽じゃありませんか」 その時、蛾濠がやって来た。スマートフォンを由城に見せる。 「どうやら本当みたい。あーあ、随分とやらかしてくれたわね。この落とし前、アンタはどう取るつもりよ」 由城は気に入らなかったか、思いっきり舌打ちをする。庵部が横槍を入れる。 「我がリーダーに対する態度ではないだろう。身の程を弁えたまえ」 「最後のチャンスを与えてあげるわ。鏡真珠、貴方にとって忌々しい女を完全に始末してきなさい」 蛾濠は由城に拳銃を手渡す。由城は怒りに震え握りしめられていた拳銃を見つめていた。 メンバーは全員Under Dの部屋にいた。綺堂と瀞枝と氷川はそれぞれ江利賀達から手当てを受けている。瀞枝はアルコールが染みて悲鳴をあげていた。 「もうちょっと私を労わりなさい」 「ちょっとアルコールが染みたぐらいで文句を言わないで下さいよ。トロさん」 「君が来れば良かっただけだろう。このイケおじに無茶などさせおって」 「はいはい」 江利賀はつまんなそうに手当てを続ける。綺堂と氷川は鏡から手当てを受けている。 「すいません…」 「お前が謝る必要はねぇ。無事で良かったよ」 「むしろ、あのクサレ連中が鏡に謝ってほしいがな。ていうかどこにいたんだ?」 綺堂の問いに江利賀が答えた。 「それは秘密基地ですよ。ごく一部の人しか知らない場所。まぁ奴らもそこまで手が及ばなかったでしょう」 「奴らってまさか『カポネ』の事か?俺達も幹部の一味と遭遇したぞ」 「黒い服の男の正体は由城秀でした」 鏡はモニターを操作し、由城の写真を大画面で表示させる。 「この男に狙われているって事か。これは何かヤバいかもな」 「とにかく、お前はここから一歩も出ないほうが良い」 鏡は悲壮漂う表情を浮かべる。 「そんな…」 「そう言われた所でどうすることができないのが今の現状だ。確かに由城は指名手配になっている。だが、カポネの連中からしてみればお前は既にお尋ね者の扱いだ」 その時、国馬がUnder Dの部屋にやって来た。 「一連の出来事を全て聞かせて頂きました。鏡さん、貴方にはしばらくここに泊まってもらいます」 「え…」 鏡はきょとんとしている。国馬が続ける。 「ここには仮眠室が存在します。そこなら安全でしょう」 「わかりました…」 江利賀が国馬に尋ねる。 「それよりも国馬さん。『カポネ』ってあんなヤバい連中の集まりですか」 「ええ、警察組織間にも手が及んでいると見て良いでしょう。推測ですが警察組織の中に内通者がいるかもしれません」 「まさかね…」 志紋は倉木から手当を受けていた。志紋の左手は包帯で巻かれた状態だ。 「全く無茶なんかして。私にも責任問題が及ぶわよ。江利賀君に煽られて本気出しちゃった?」 「すいませんでした」 志紋は倉木に頭を下げて謝罪する。 「まぁよく頑張ったわね。少し見直したわ」 「はい」 倉木は志紋を褒め称える。志紋は少し表情が緩んだ。 翌日、Under Dの部屋には鏡を除いて全員集まっていた。 「『カポネ』に関してわかったのは庵部陸と由城秀が取り仕切っている事だけか」 「俺達はそのギャング集団に対抗する為に作られたという訳ですか」 その時、鏡が国馬と共にやって来た。 「おはよう、お嬢。昨日はよく眠れたか?」 「はい、お陰様で。実はカポネに関して調べていたんです。そうしたらこの女が組織のトップだという事がわかりました」 鏡はモニターを操作して蛾濠恵美の顔写真を表示させた。 「どう見ても組織のトップには見えない顔だな」 「私もそう思いました。この蛾濠という女は志紋さんと繋がりがあったようです」 すると江利賀の視線は国馬の方を向いた。その眼はどこか怒りっぽい。 「国馬さん。志紋さんを利用してたってことですか」 「いえ…」 「だったら、昔の親友がギャング集団のリーダーだなんて彼女に正直に言えるんですか…!」 江利賀と国馬は互いに睨みあっている。すると鏡のスマホに着信が入った。どうやら非通知設定のようだ。鏡は意を決してその電話に出る。 『御機嫌よう。鏡真珠』 「由城秀…⁉」 その言葉に全員、鏡の方を向いた。 『この前は随分とやってくれたじゃねぇか。だからその報復をしに電話をかけたんだ。「パール」』 「なんでその名前を…⁉」 『ホワイトハッカー「ドルチェ」は知っているよな?俺が今人質に取っているのは、その女だ。嘘だと思うなら声を聞かせてやろうか?』 『ごめん…何者かに襲われた…』 鏡の顔から血の気が引いた。 「深町さんを返して!」 『勿論返してやるさ。1人でエタンドルに来いよ。もし仲間を連れてくればこの女の命は無い。お前の自我が崩れるのが楽しみだぜ!ハッハッハ!』 鏡は電話を切って、部屋から立ち去ろうとする。 「まさか1人で向かおうって訳じゃないよな?俺にもそこに行かせろ」 「仲間を連れてくれば、由城は深町さんを殺すんですよ⁉」 江利賀は鏡の肩を叩く。 「お前が焦ってどうするんだ。二度に渡って誰かを人質に取るあたり確実に焦っている。もう奴は背水の陣だろう」 「確実にそこをついて奴を締め上げれば良い」 「わかりました…」 鏡は一先ず矛を収めた。 「国馬さん、俺と鏡はエタンドルに行きます。倉木さんに伝えておいて下さい」 「承知しました」 江利賀と鏡は部屋から出て行った。 エタンドルにやって来た鏡は一人で店の中に入っていく。そこには深町が椅子に座った状態で拘束されていた。その隣に由城もいる。 「深町さん!」 「よぉ。鏡真珠。本当に一人で来るとは大した女だよ」 「早く深町さんを返して!」 その瞬間、由城の持っている拳銃は深町の方を向いた。 「約束を破る気…⁉」 「約束なんて破るためにあるんだろ?最初から返す気は毛頭ないんだよ」 「何でこんな事を…?」 「言っただろう。お前のせいで何もかも目茶苦茶にされたんだ!だからその仕返しにな、お前の大事な人物を殺しに来たのさ!無論、お前もここで死ぬ」 由城は口笛を鳴らす。覆面を被った人物がやってきた。鏡に銃口を向ける。 「残念だったな!まずはお前から始末してやるよ!」 すると次の瞬間、覆面を被っている男が突如として由城に拳銃を突き付けた。 「おい!どういう事だ!標的は俺じゃねぇぞ!」 「標的は最初からお前なんだよ」 その言葉に男は覆面を外す。正体は江利賀だった。江利賀はキックで由城が持っている拳銃を叩き落とした。 「な…?どうやって入りやがった…⁉ここには簡単に入れないはずだぞ…?」 「さぁな。それはお前の想像にお任せだよ」 鏡は深町の拘束を解く。その時、倉木も店に入ってきた。 「警察だ!もう逃げられないぞ!」 「もう終わりだ。お前は人質を取って鏡を追い詰めたつもりになってたな。だが追い詰められていたのはお前だよ」 「ふざけんな…!順番が違うがテメェらから始末してやる!」 怒り狂った由城はナイフを片手に2人に襲い掛かってきた。しかし2人の身のこなしは素早く掠りもしない。倉木は咄嗟に拳銃を構えて由城の方に向けた。 「警察がなんだ。撃ってみろよ」 「ああ、お望み通りにしてやるよ。お前は既に指名手配されている。だから容赦はしない」 倉木は由城の足をめがけて発砲した。その銃弾は見事に撃ち抜いた。由城はそのまま動かなくなった。 「本当に撃つ奴がいるか…⁉」 「知るか。自業自得だろ」 倉木はそう吐き捨てて由城に片方の手に手錠をかける。江利賀は鏡を呼び寄せた。 「鏡、お前が手錠をかけろ」 鏡は由城に手錠をかけた。尚も由城は笑顔だ。 「何を可笑しいの…⁉」 「俺を逮捕してもカポネは壊滅しない。警察組織の中に裏切者がいるかもな。これからどんなに災いがお前らに振りかかるか楽しみにしていろ…!」 由城は不敵な笑みを浮かべていた。倉木はそんな由城に向かってパンチを喰らわせる。 「おのれ…!」 「余分な事言ってんじゃねぇよ。お前にはスペシャルサービスしてやるから楽しみにしておけよ」 拘置所に連れて来られた由城は椅子に座った状態で拘束された。 「おい!これは一体何の真似だ!」 「決まってんだろ。目には目を、歯には歯をだ」 「ふざけんな!警察官がそんな事をして――」 暴れる由城を抑えるかのように倉木は拳銃を突き付けた。 「お前にはカポネが持つ情報を全て喋ってもらう義務がある。いくら口を塞いだとしても無駄だからな」 「何だよそれ!意味がわからねぇぞ!」 倉木はそそくさとその場を去っていく。拘置所の独居房には由城の叫び声が虚しく響いていた。 カポネのアジトで庵部は部下の1人から由城が逮捕された事を聞かされた。 「そうですか、ご報告ありがとうございます。下がりなさい」 部下が去った後、庵部は錠剤らしきものを取り出す。そのマークは輪っかを模している。 「由城のバカめ。女だからといって侮りやがって…!」 庵部はその錠剤を握りつぶした。掌で粉々になる。 「今度は私の番だ。我々に逆らうことがどれだけ愚かな行為か思い知るがいい…!」 庵部は怒りでわなわなと震えていた。 数日後、エタンドルには綺堂と瀞枝と氷川の3人で訪れていた。 「お体の具合は大丈夫ですか?」 「ええ、何とか」 深町は3人にコーヒーを差し出す。 「真珠ちゃんは良い仲間に恵まれたと思います。皆の足を引っ張っていないか少し不安ですが」 「その心配は無いですよ。鏡は加入したときより成長してる」 「頼れるハッカーとしてね。彼女の代わりはいない」 「少し無茶をするのが玉に瑕だけどな。まぁそんな所も可愛いもんだ」 深町は穏やかな表情を浮かべる。そして頭を下げる。 「こんな私が何と言っていいか分からないですけど、これからも彼女の事をよろしくお願いします。もし無茶をするような事があれば遠慮無く止めてください。これは師匠命令ですので」 「わかりました」 その鏡は国馬のいる責任室にいた。鏡が話を切り出す。 「この組織やカポネに関して知らなければいけないことが一杯あります。教えて下さい」 「貴方は知らなくて良いことです。それ以上は踏み込まない方が良いでしょう」 「そうはいきません。私は鮮見友里子の娘ですから」 鏡は鮮見の名前を持ち出す。国馬は座り直す。 「そういう所は母親とそっくりですね。良いでしょう。後戻りしない覚悟があるのならば」 そして鏡は知ることになる。Under Dやカポネに隠された過去を――
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