27人が本棚に入れています
本棚に追加
CASE9
こがね銀行では志紋と蛾濠が銃を構えながら、お互いに向き合っていた。
「私の嫌いな警察官に、貴方はなったっていうの…?」
「そうよ。冤罪に苦しむ人間を見たくないから警察官になったの。でも今は違う」
蛾濠はふと振り向いて監視カメラの方を見る。監視カメラに向かって発砲した。
「もうこれで仲間達に映像は映らないわよ。貴方が死ぬ瞬間はね」
志紋は蛾濠の目をずっと見ている。
「ていうか、そもそも泣き虫で引っ込み思案だった、寿梨ちゃんなんかに私を撃てるのかしら?」
「それは15年前の話でしょ。あの時の私と一緒にしないで」
2人は銃を構えたまま、固まっている。志紋が啖呵を切った。
「これで全てを終わらせるわ。アンタをこの手で絶対に逮捕する」
「やれるもんならやってみなさいよ」
売り言葉に買い言葉と言わんばかりに蛾濠も負けずに言い返す。そして銀行内に重たい銃声が響き渡った。
その様子をunder Dの部屋で鏡と江利賀が聞いていた。
「志紋さん!」
「おい、聞こえるか!」
2人の呼びかけに志紋が応じる事は無かった。
「まさか…」
鏡は悲痛な表情をしている。
銀行内では既に銃撃戦が終わっていた所だった。蛾濠は腕を押さえている。どうやら勝ったのは志紋の方だったようだ。蛾濠はただ驚いているようだ。
「どうして私を撃てたの…?貴方は私の友達の筈よ…?」
「アンタはもう私の親友じゃない。倒すべき悪よ。栄美がしてきた事は絶対に許さないから」
「だったら、私を殺せば良かったでしょ…!」
「始めはそうしようと思ったわ。でも罪を償ってもらう責務がある。射殺なんてしたら一生後悔するから」
志紋は蛾濠に手錠をかける。そして冷静に蛾濠に告げた。
「殺人未遂の容疑で逮捕する」
志紋は蛾濠に手錠をかけたまま連行していく。蛾濠の目にはうっすらと涙が浮かび上がっていた。
『速報です。こがね銀行内で発生しました強盗事件ですが、先ほど犯人が逮捕されました。犯人の名前は蛾濠栄美、25歳。この事件における怪我人はいません。そして――」
庵部はそのニュースをラジオで聞いている。そして怒りを抑えながらラジオの電源を切った。
「どいつもこいつも使えない役立たず共が…!」
その時、スマホが鳴った。庵部はその電話に出る。電話の相手は覆面の男だった。
「はい、庵部です」
『後がなくなりましたよ、庵部君。どうするつもりですか?』
「その事くらいわかっていますよ…!蛾濠も由城も役立たなかったのですからね!」
庵部はいきり立っている。
「今度はカポネの頭脳である私の番です。見ていていただけますでしょうか」
『期待していますよ』
庵部は電話を切る。その表情には苛立ちが募っていた。
取調室には志紋と蛾濠が向き合う形になって対峙していた。
「私を甘く見すぎた。言ったはずよ。15年前の私とは違うって」
「…」
蛾濠は何も答えない。志紋はさらに畳みかける。
「射殺しないで生かしたのは、カポネという組織について洗いざらい喋って貰うためよ。さっさと吐いたらどう?」
「そんな事を誰が教えると思ってんのよ!」
蛾濠は机を叩き志紋を恫喝する。志紋はすぐさま立ち上がり蛾濠の胸倉をつかんだ。その目に宿っている感情は怒りだ。
「な、何するのよ…」
「今のこの状況でもそんな事が言えるの?さっさと言いなさいよ!」
蛾濠にとって今の志紋は昔とは違うと察したようだ。
「わかった…話すわよ…」
志紋は蛾濠を掴んでいるその手を離す。蛾濠は咳き込みながら話す。
「庵部陸、あの男よ。覆面の男と繋がりがあるのは」
「覆面の男…?」
「そいつがカポネの実質上のトップよ。捕まえない限りカポネは壊滅できないわよ」
蛾濠は情報を志紋に話すと、少し嫌味ったらしく笑みを浮かべる。
「何が可笑しい…?逮捕されて頭がぶっ飛んだの…?」
「ハハッ。もう遊びはこれまでよ。警察組織の中にとんでもない裏切者がいるかもしれないわよ…?」
「何だと…?」
志紋は蛾濠を怪しむような目で見つめていた。
一方、Under Dの部屋には全員が合流していた。
「蛾濠も由城も警察組織の中に裏切者がいるって同じような事を言ってますけど、本当なんでしょうか…?」
鏡が疑問を抱く。綺堂が答える。
「2人とも同じ事を言っているっていう事はかなりクロに近いな」
「それがもし国馬さんが関わっていたとしたら――」
鏡の心配を他所に江利賀が机を叩く。
「考えすぎだろ。国馬さんは絶対に関わっていない」
「確証もないのに何でそうやって言い切れるんですか?」
「中川のあの言葉がどうしても引っかかっている。『壊滅できない』じゃなくて、『壊滅させない』ように何か仕向けている感じがする」
江利賀は中川の発した言葉が気になっていたのだ。そしてもう一つ気になる事を話した。
「庵部が未だに動いてこないのは妙すぎる。奴からしてみればあの2人は捨て駒扱いだろうな」
その時、扉が開いて国馬がやって来た。何かその表情は慌ただしい。氷川が訊ねる。
「どうしたんですか?」
「倉木さんからたった今連絡がありました。由城秀が何者かに殺されたようです」
その言葉にメンバー全員に緊張が走る。
「カポネの連中もかなり手の込んだやり口を使ってきているな」
「犯人に心当たりがありませんか?」
鏡が国馬に訊くが、返って来た返事は衝撃の事実だった。
「それが、全て映像に残っていません」
「完全にやられたみたいだな」
「だとしたら…?」
すぐに鏡はパソコンがある席に座りハッキングを行い、庵部の居場所を特定する。
「庵部は銀座の歩行者天国にいます」
「何のつもりだ…?」
瀞枝は訝しむ。すると突如として江利賀はすっくと立ち上がり、Under Dの部屋から出た。
「おい!どこ行くんだよ!」
綺堂が呼びかけるも既に江利賀の姿は遠ざかっており見えなくなっていた。
「ランボーの野郎、どこ行くつもりだ…?」
氷川が考えるも誰も答えないようだ。そんな中、国馬が何かハッとしたような表情を見せる。
「庵部の狙いがわかりました。彼は『新宿無差別通り魔事件』を再現しようとしてるのかもしれません」
「国馬さん、その事件って…」
綺堂が身を乗り出すようにして国馬に尋ねる。
「ええ、江利賀さんの親友であり倉木さんの弟が殺害された事件、Under Dの面々しか知らないあの事件を知っているのは…」
その頃、庵部は銀座の歩行者天国にいた。トラックから降りてきたのは庵部の他にも武装集団がぞろぞろといる。
「有り難く思いたまえ。殺戮ゲームの時間だ」
庵部は3Dプリンターで製造された銃を通行人に向かって発砲する。通行人はたちまち蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出した。
倉木は志紋と取調べを交替していた。射るような眼差しで蛾濠を問い詰める。
「由城が殺されたわよ。何か心当たりはあるか」
「はぁ?そんな奴知らないわ。仲間でもなんでも無いし」
「とぼけるな!」
倉木は机を叩き威圧する。それでも今の蛾濠には柳に風の状態だ。
「そんな事より、アンタ達は仲間の心配でもしたら?」
「ふざけるなよ…!」
その時、取調室のドアが開き、志紋がやってきた。その表情は何か焦っている。
「倉木さん、大変です!庵部陸が銀座の歩行者天国で通り魔事件を起こしています!それと江利賀さんと連絡が取れません!」
「何だと…!」
2人を見て蛾濠はほくそ笑む。志紋は蛾濠の目を見据える。
「ほーらね。言ったとおりでしょ」
「さっさと知っている情報を吐けよ!」
叫びながら志紋は蛾濠の胸倉を再び掴む。倉木は引きはがす。
「刑事さんって乱暴者の集まりなのね。本当に嫌になっちゃうわ。まぁ良いわ。大ヒントを教えてあげる。庵部は犯行予告を行っているわ」
「それがこの通り魔無差別殺傷事件か…!」
蛾濠は大笑いする。
「まぁ精々足掻きなさい。カポネの運営するサイトは特殊な手段でしかアクセスできないから。貴方たちには絶対に捕まえられないわ」
「その余裕、いつまで続くか楽しみにしてやるよ」
志紋と蛾濠はお互いに睨みあっていた。
その頃、Under Dの面々は未だに江利賀と連絡が取れない状態である。氷川は柄にも無く苛立っている。
「亜嵐はどこに行きやがった…」
鏡はパソコンを操作して江利賀の位置を追跡しようとするが、特定できないようだ。
「江利賀さん、何で…?」
鏡は脱力したように気落ちしてしまっている。そんな姿を見て綺堂が発破をかける。
「これぐらいの事で諦めるのか?」
「これぐらいの事って…江利賀さんが勝手にどっか行ったんですよ!それなのに、みんなして捜しに行かないなんて酷いじゃないですか!もしかしたら――」
鏡は既に目に涙を浮かべて怒っている様子だ。瀞枝が間に入ってくる。
「もしかしたら何だ」
「…」
鏡は何も答えられない。そんな姿を見て声を荒げる。
「不吉な事を言うんじゃない!大体ランボーが勝手な行動をとるのはいつも通り。悲観的に考えすぎだ!」
氷川が机を叩いて瀞枝の目の前に立つ。
「トロさん、確かにいつも通りかもしれない。でも、今回は勝手が違いますよ」
「そんな事はわかっている」
「だったら、鏡に謝った方が良いと思いますよ。彼女だって心配なんですから。綺堂、お前も軽すぎる」
瀞枝は鏡に一言「済まない」と詫びる。綺堂も「悪かった」と謝罪した。
鏡は気にする事無くパソコンを操作し続ける。すると何かハッとしてポケットからUSBメモリを取り出した。氷川が尋ねる。
「何だそれは?」
「ダークウェブにアクセスする為にパスワードを破る用のUSBメモリです。深町さんに万が一の事があったらこれを使ってと渡されました」
「揃いに揃って恐ろしいな…」
綺堂が呆気に取られている中、鏡はダークウェブにアクセスを開始する。しばらくしてハッキングを完了し、アクセスに成功した。それはカポネが運営している裏サイトだった。鏡は順番に掲示板を見ていく。
「どこかに犯行予告が書いてあるはずです」
鏡は画面をスクロールしていく。その様子を後ろで3人は見守っていた。
一方、銀座の歩行者天国では庵部が悠々と歩いていた。
「いくら警察だろうが、この殺戮ゲームは止められない!さぁ存分に足掻き続けるが良い!」
庵部は笑いながら銃を乱射している。そこに人影が見えた。それは江利賀だった。
「今更何の用でしょう?もうゲームは始まっていますよ。止めようと思ってももう遅いですね」
「やっぱり、中川哲也と繋がっているのはお前か」
「そんな男、見たことも聞いたこともないですよ」
庵部は銃を江利賀に突きつける。
「君は過去に通り魔事件で大切な親友を失った過去がある。それ故に仲間を失う事を非常に恐れているんでしょう?」
「それが何だって言うんだ。そんな過去の話を持ち出された所で動揺すると思ってるのか」
江利賀は庵部の目をしっかりと見ている。すると庵部はある提案を持ち掛けた。
「貴方の仲間を虐殺してきなさい。そうすればここにいる人達を助けてあげましょう」
「誰がそんな事応じると思ってんだ…!ふざけた事言ってんじゃねぇよ!」
江利賀が声を張り上げたのを見て庵部はせせら笑う。すると銃口を江利賀に向けた。
「そう言うと思っていましたよ。ならば標的は君だ!」
庵部は江利賀に向かって発砲する。しかし上手く扱えず、思いっきり外した。その隙に江利賀は逃走した。
「チッ、逃げましたか。それでも逃げられると思ったら大間違いですよ…?」
庵部は卑しい笑みを浮かべていた。
鏡はカポネの運営するダークウェブにハッキングを成功させて、パソコンを動かすスピードが速くなっていた。鏡は何か見つけたのか突如として大声を上がる。
「これです!」
その声に綺堂達の目線もパソコンに釘付けになる。そこには衝撃を受ける内容が載っていた。
「この男を殺せ。多額の懸賞金が手に入る…?」
「これはかなりまずいな…」
カポネのサイトには懸賞金が懸けられた江利賀の顔写真が載っていた。4人が呆然としている中、そこに国馬も合流した。国馬が見せたのはコンセント型の盗聴器だった。鏡は唖然としている。
「何でこんな物が…?」
「全ての会話が筒抜けだったって事ですか」
瀞枝の質問に国馬は首を縦に振る。国馬は画像を4人に差し出した。
「見覚えのありすぎる顔だな」
「実はこのUnder Dで捜査し、警察で逮捕に至った犯人が失踪しています」
メンバー全員に動揺が走る。すると途端にモニターがジャックされた。画面に映し出されたのは庵部だった。
『ごきげんよう。おやおや随分と動揺していらっしゃいますねぇ』
「江利賀さんはどうしたんですか!」
鏡は声を張り上げる。庵部は急に吹き出した。
『どうしたも何も、彼はゲームの参加者ですから』
「ゲームだと…?」
『今や彼は賞金首。殺せば賞金が入りますよ』
その言葉に国馬は激高した。普段冷静な国馬が怒り出した事に4人は驚いている。
「人の命を何だと思ってるんですか!言っておきますが彼は簡単に捕まりませんよ!」
『果たしてそうでしょうかね。私が率いる特殊武装兵集団『アルカトラズ』は極めて優秀な人材が揃っていますから。もちろん彼にも勝利条件がありますよ』
庵部は溜めて勝利条件を話す。
『彼にはただ逃げてもらい、時間無制限でカポネのアジトの起爆装置を止めてもらうだけです。簡単な事でしょう』
「随分と余裕なんですね」
鏡は嫌味を込めて庵部に言う。庵部は余裕を見せて大笑いをする。
『アジトの場所は簡単には突き止められませんよ。無論、我々の特殊部隊が彼を捕まえればその場で消し去ってあげますよ』
メンバーの表情が凍り付く。そんな中、国馬が庵部に訊ねる。
「それよりも聞きたい事があります。警察組織の内通者はいったい誰なんですか。こんな盗聴器がこの部屋に仕掛けられてましたけどね」
国馬が盗聴器を見せつける。庵部は知らんぷりをした。
『内通者…?それは江利賀亜嵐がゲームに勝てばいずれ分かりますよ。まぁそんな事は絶対にあり得ませんけどね!ハッハッハ!』
庵部は興奮気味に話し高笑いする。そこでモニターの電源を切られた。その後のUnder Dの部屋の中は重たい空気が充満している。
「とにかく、今は江利賀さんを信じましょう。鏡さん、アジトの場所を突き止められますか」
国馬の指示で鏡は再びパソコンを操作する。カポネのサイトにアクセスした鏡はとある数字を見て手が止まる。
「国馬さん、この数字って…」
「恐らくですが、そこがカポネのアジトとみても良いでしょう。緯度経度が10進法と表記しているとするなら検索すれば特定できるはずです」
鏡は緯度と経度の座標を正確に入力して位置を特定する。やがて特定に成功した。モニターにはそのアジトの写真が載っている。その場所はなんと島であった。
「島かよ…」
綺堂は驚いている。氷川は冷静にそのマップを見ている。
「陸繋島、いわば島みたいなものか」
「そこにアジトがあるという事だな」
瀞枝が一言呟いた後、鏡は江利賀のGPSのハッキングを試みる。すると今度は成功できたようだ。モニターに全員の視線が集中する。
「どこかで止まっているな。恐らく追われているんだろう」
「アジトの位置を江利賀さんに教えるなら今です」
鏡はスマホを取り出す。
同じ頃、逃走中の江利賀は物陰に隠れていた。『アルカトラズ』の連中をうまく撒いたようだった。江利賀は大きく息を吐く。江利賀はスマホを取り出す。するとその瞬間、手にしていたスマホが振動した。鏡から電話が来ているようだった。ワンコールで電話に出る。
「はい、こちらUnder Dのエース、江利賀亜嵐――」
『鏡です!貴方は馬鹿なんですか!勝手に出て行ったせいで皆に迷惑かけてるんですよ!組織の一員としての自覚はないんですか!」
鏡が電話越しに怒っている姿を想像してしまったか、江利賀は笑い出す。鏡の怒りはまだ収まらないようだ。
『何を笑っているんですか!カポネの裏サイトで懸賞金が掛けられているんですよ!』
「そんなに怒るなって。俺は無事だからさ。まぁ少しヤバい感じなのは事実だけどね」
江利賀は鏡の怒りを宥めるように言う。そして表情を一変させこう告げる。
「確かに、庵部が率いている特殊部隊『アルカトラズ』はヤバい連中の集まりだ。逃げても逃げても追いかけて来やがる。鏡、何か情報は掴めたか?」
鏡はダークウェブをハッキングして得た情報を話す。
「了解、流石天才ハッカー。深町さんの一番弟子の名は伊達じゃないな」
『余分なお世辞はどうでも良いんで、早く帰ってきてもらえませんか。人の気も知らないでよく楽天的でいられますね』
「その口調は誰に似たんだが。きっちり仕事して、生きて帰ってくるから心配すんな」
江利賀は電話を切る。すると直ぐにスマホに写真が届いた。それはカポネのアジトの本拠地だ。江利賀は意を決して走り出した。
拘置所の独居房に蛾濠は送り込まれた。そこは由城がいた場所だ。志紋が蛾濠に厳しい視線を送る。
「何もかも甘いのね。栄美ちゃんは」
「どういう事よ…!」
志紋は蛾濠にカポネの運営する裏サイトにアクセス出来た事を告げる。そしてアジトを突き止めたことも話した。聞いた瞬間、蛾濠の顔が青ざめた。
「何で、何でなのよ…!」
「カポネなんて所詮烏合の衆。アンタ達なんて何にも怖くないわ」
プライドもズタズタにされたか、蛾濠はもう言い返す力は残っていなかった。
「塀の中で一生反省してろ。もうアンタとは親友じゃない。情状酌量も執行猶予も無いわ」
志紋は蛾濠に吐き捨てその場を去っていく。蛾濠が虚しくすすり泣く声だけが拘置所に響き渡っていた。
庵部も江利賀の尻尾を掴めないことに苛立ちを見せていた。
「何処にいる…!早く出てこい!」
庵部は銃を持ったまま歩き出していく。その表情は焦りが募っている。
その夜、鏡はUnder Dの部屋でただ一人パソコンを操作していた。 そこに国馬が一人でやって来た。モニターに映し出されたその画像を見て国馬の表情が固まる。映し出された画像は『墨田区女児殺害事件』に関連するものだった。
「一体何で私には黙っていたんですか」
「それは…」
鏡は国馬の方を振り向く事をせず問い詰める。
「Under Dを創設したその本当の理由は、貴方の娘が『墨田区女児殺害事件』の被害者だったから。その被害者の名は雲崎舞華。そうですよね」
国馬はその時の映像がフラッシュバックして来る。やがて過呼吸を起こしその場で崩れ落ちる。尚も鏡は畳みかける。
「私を試す為に敢えて黙っていたんですか…!」
「そんな訳じゃ…」
その時、綺堂達も部屋に入ってきた。厳しい視線を国馬に向ける。
「どういうつもりだったんだ。俺達には先に伝えていて、鏡に何故伝えなかった。その理由を説明してみろ」
瀞枝は黙っている国馬に詰め寄る。
「それは…」
「お前はいつまで子供扱いしているんだ!娘を失った喪失感を埋める為か!鏡だってその事に気づいていた筈だろう!」
国馬は膝を付いて鏡に謝る。鏡は嫌な物を見る目をした。
「大変申し訳ありませんでした…」
謝罪した後、鏡が声をかける。
「顔を上げて下さい」
その言葉に国馬は顔を上げる。鏡は国馬の目を見て語り掛ける。
「私は貴方を少しだけ許せません。ずっと子供扱いしていた事も、大事な事を黙っていた事をです。だけど、身寄りの無い私を受け入れてくれた。嬉しかったし感謝してますから」
綺堂は国馬の肩を叩く。氷川も国馬と同じ目線で話しかける。
「わかってやったらどうですか。俺達は過去の傷を背負いながらも一生懸命今を生きている。一人で全て抱え込む必要はない」
「俺達はチームじゃないですか。そう言ってくれたのはアンタだろ」
その時、倉木が部屋に入ってきた。何か神妙な顔をしているようだ。
「江利賀亜嵐が指名手配になったそうだ」
その言葉に部屋の空気が一変する。
「そうか、ご苦労だったな」
そう言ってアジトにいる覆面の男は電話を切る。するとアジトの電気が点いた。そこに江利賀がやって来た。江利賀は男を追い詰める。
「もう逃げられないぞ。このゲームは俺の勝ちだ」
男は椅子を回転させて居丈高な口調で話す。
「まさか本当にここにやって来るとはな。組織の危険人物の名は伊達では無かったようだな」
「やはり、カポネの創設者はお前だったんだな。中川哲也」
男は覆面を取る。その正体は中川であった。
「大した男だ。私の正体まで突きとめるとはね」
2人はお互いに睨み合う。Under Dとカポネ、2つの組織の全面戦争が始まろうとしていた――
その頃、国馬は倉木と共にカポネのアジトへと向かっていた。
「必ず彼を救い出します。長年のバディとして」
「ええ。仲間として彼を絶対に助けます」
お互いに覚悟を決める。2人を乗せた車は夜の市街地へ消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!