CASE2

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CASE2

ギャング集団『カポネ』のアジトでは集会が開かれていた。2人の若い男子が高らかに宣言する。その名は庵部陸、由城秀である。 「我々は選ばれた人間だ。君達もそうだ」 「その通り、我々が警察組織を蹂躙する!」 2人の力強い宣言にアジト内からは大きな歓声が上がる。 その時、若い女性がやって来た。女性の名は蛾濠栄美と言い、『カポネ』のリーダーである。構成員は道を開けた。 「私、警察なんて大嫌い。小さい頃に警察官に家族を滅茶苦茶にされたもん。あんな偽りの正義の仮面を剥がしてやりたいわ」 蛾濠はステージ中央に用意された椅子に座る。 「この世は弱者を助けない。ならば私達が救い出してあげる」 蛾濠は悪戯な笑みを浮かべている。またもやアジトからは大きな歓声が上がっていた。 志紋は神奈川県警の屋上にいた。倉木と国馬が話を切り出す。 「聞いていましたか…」 「すみません…」 「お偉いさんの会話を盗み聞きなんて、中々度胸があるわね」 志紋は何も言わず黙っている。倉木が続けた。 「その度胸を買って、私が貴方を推薦したのよ。警察学校の時でもそう。他の人にも食って掛かって、私を困らせたりもしたわね」 「あの時は失礼しました…」 志紋は頭を下げる。 「良いわよ。本当は貴方が繊細な性格だという事も知っているし、警察官になったのは親友を探す為。そうでしょう」 図星を突かれて志紋は何も言い返せない。 「とにかく貴方には期待しているわ」 倉木はそう言って、去って行った。 Under Dの部屋には既に鏡がパソコンを操作していた。綺堂、瀞枝、氷川、国馬のデータをそれぞれ閲覧している。 「カポネ…?」 そこに他の4人がやって来た。鏡は慌ててパソコンを切った。 「よぉ、お嬢ちゃん。早いな」 「いえ…」 江利賀は軽い口調で尋ねる。 「それで何を調べていたんだ?」 「別に」 鏡は綺堂に対して素っ気ない態度を取る。氷川は綺堂の肩をそっと叩く。 「どうやら嫌われてるようだな」 「やれやれ」 瀞枝は綺堂をフォローする。 「まぁ、仲良しこよしじゃ意味がないからな」 そこに国馬もやって来た。 「全員集まりましたか。始めましょう」 国馬はモニターを操作して顔写真を表示する。 「今回の調査対象者はこの女性です。三島風香」 「なんかヒステリックな感じ。絶対何かやってるな」 江利賀は軽い口調だ。 「確かこの女、娘が亡くなったんだろ?」 瀞枝が顔写真を見ながら言う。国馬は話を続ける。 「ええ。自宅から9㎞離れた川で遺体が発見。事件・事故の両方の観点で捜査が進められましたが、警察は早々に事故と判断して捜査を打ち切ってしまいました」 「スクープ記事を狙ったけど不発に終わりましたね。まぁ、取材対象者・対象地域に押しかけて執拗に付きまとうメディアスクラムが酷かったらしいですけど」 「それで、国馬さんがこの女に狙いをつけたのは逮捕する為って事ですか」 綺堂の質問に国馬は首を縦に振って答える。 「はい。三島を逮捕する事が出来れば事件解決に大きく繋がります」 その頃、志紋は15年前に蛾濠恵美の両親が絡む事件に関して調べていた。そこに倉木がやって来た。 「15年前の事件なんて調べて何をしてるんだ」 「…」 志紋は何も言わずただ黙っている。その様子は何処か暗い。倉木はその事件の内容のファイルを取り、資料をひたすら眺めている。すると志紋は口を開いた。 「冤罪って無くならないんですか…?」 「急にどうした?」 「この事件、私の親友である蛾濠恵美の両親が起こした事件なんです。でも本当はやっていないんじゃないかって」 「15年間ずっと考えているってか」 「あの事件さえなければ、私と恵美の仲は引き裂かれずに済んだ。恵美が警察を嫌いになったのもあの事件が原因です」 「そしてお前はそいつが大嫌いな警察官になった」 「もし彼女に会えるとしたら、嫌われても構いません」 志紋は一礼をしてその場を去って行く。 神奈川県警察本部長室では国馬が県警本部長である中川哲也の元を訪れていた。 「Under Dの捜査は順調なものかと思いますよ」 「ありがとうございます」 「メンバーである綺堂敬治、瀞枝聖也、氷川祐一、そして貴方もギャング集団である『カポネ』によって人生を狂わされた人間――」 「…」 「Under Dの本来の目的は『カポネ』を壊滅させる事。それだけは分かって頂きたい。くれぐれも躓きが無いように」 「分かっています」 国馬は神奈川県警察本部長室を出て行った。中川は厳しい視線を向けている。 綺堂と氷川は娘である汐里が亡くなったとされている現場となった川に来ていた。 「初動捜査でミスがあった。それは間違いないかもな」 「娘が帰って来ないと言って、110番通報をした」 「母が犯人だと思うか」 「さあな」 江利賀は三島風香の元を訪ねていた。三島はとりつく島もない。 「お聞きしたい事が山ほどあるんですけれど…」 「帰れ!」 江利賀はぺットボトルが入った水を思いっきりぶちまけられた。頭を左右に揺らしながら気を取り直して尋ねる。 「貴方が娘を殺したという証拠が――」 「私はやっていないんだよ!」 そう言ったきり、ドアは乱雑に閉められた。江利賀は思いっきりため息をつく。その時、スマホが鳴った。電話の相手は瀞枝からだ。 「トロさん、急に電話かけてきてどうしたんですか?」 『大変なことになったぞランボー。もう1人、児童の遺体が見つかった』 「は?どういうことですか?」 『散歩中の男性が、川岸から離れた道路脇の草むらの中で発見したそうだ。昨日から捜索願が出されていたらしい。その子の名前は東根真司。殺害された三島汐里とは同じ小学校の同級生だ』 「何がどうなってんだ…?」 『すぐに戻ってこい、作戦を練り直すぞ。綺堂と氷川にはその現場に行かせる』 「わかりました」 東根が発見された場所では倉木と志紋が現場検証にやって来ていた。 「索条痕が出来ている辺り、何者かが首を絞めて殺したって事で間違いないですね」 「おそらく窒息死で間違いないだろうな」 そこに綺堂と氷川がやって来た。志紋は怪訝な様子を見せて2人を止めようとする。 「ちょっと、ここは立ち入り禁止ですよ」 2人は腕章をつけて志紋に見せつける。それは「Under D」の捜査員を示すものだ。 「何で…?」 「俺達は国馬さんから認められた特殊捜査員だから」 氷川はそう言い、東根の遺体を撮影している。綺堂は少し引き気味だ。 「よく平然と死体を撮影できるな。気持ち悪すぎる」 「俺にはこれしかないんだよ」 氷川はさらっと言い返す。綺堂にその写真を見せた。綺堂は目を覆っている。 「おそらくロープ。紐みたいな物を使って首を絞めたんだろう」 「ひとまず、俺達も戻るぞ」 Under Dの面々は鏡を除いて全員集まっていた。綺堂は軽口を叩く。 「おいおい、国馬のババアも大変だろうな」 「バカ、口を慎め。仮にも上司だぞ」 「すいませーん」 「全く、お前は」 瀞枝は綺堂の頭を手にしていたペットボトルで叩く。 「それで、何かわかった事があるんですか?」 江利賀は氷川に話を振る。氷川は1枚の写真を取り出した。 「亡くなった東根の首には索条痕があった。誰かが首を絞めたって事で間違いはない」 「その誰かがわからないんだよなぁ」 瀞枝は半ば諦め気味に言う。すると綺堂は鏡がいないことに気づいた。 「そういえば、小娘はどうしたんだ。サボりか?」 次の瞬間、綺堂のトランシーバーが振動した。綺堂は不意を突かれ驚いている。 『私は大学生ですから勉強が本分です。それにサボってなんかいませんし、一連の流れは国馬さんから聞いていました』 「そうかよ」 「それで、何かわかった事があったか」 突然モニターが切り替わり、鏡の姿が映し出された。 「今流行のリモートって感じ?」 『三島汐里が最後に消息を絶った場所の防犯カメラを調べたんですけど、そこに三島風香の姿は確認できませんでした』 「三島が映っていない…?」 『はい。その時刻には電話がかかって来てます』 鏡は電話の内容を再生させる。4人はその内容に聞き耳を立てていた。瀞枝が何かハッとした。 「そうだ、思い出したぞ!」 「いきなりどうしたんですか。そんなに声を張り上げて」 「2人が通っていた石城小学校の担任に話を聞いたんだ。何やら2人の間にトラブルがあったとかなんとか、だが何でトラブルが起きたのかは教えてくれなかったな」 「どうしても突っ込めない領域って所か」 「もっと詳しく調べてみる必要がありますね」 国馬は夫と息子と娘が眠る墓の前に来ていた。そこに江利賀がやって来た。江利賀は墓に花を供える。やがて国馬が口を話し始めた。 「私の夫はギャング集団『カポネ』の構成員によって殺された。私がUnder Dを作り上げたのも――」 「『カポネ』を壊滅させる為、ですよね」 「その通り、綺堂君、瀞枝さん、氷川君は『カポネ』の手によって人生を狂わされた人間。彼等も罪人を強く憎んでいます」 国馬は拳を強く握りしめる。 「その事を鏡さんに伝える気はないんですか」 「彼女なら恐らく気づくでしょう。何たって鮮見さんの娘さんですから」 国馬は目の前の墓をずっと見つめていた。江利賀も横目で国馬をチラリと見る。 その鏡はただ1人自宅でパソコンを操作していた。ありとあらゆる手段を駆使しダークウェブに辿り着いた。そのサイトは『カポネ』が運営しているサイトだ。鏡は綺堂、瀞枝、氷川、国馬のデータを同時に表示する。 鏡はさらにパソコンを操作していくが、その表情は途端に険しいものになった。 「この女がカポネのリーダー…?」 鏡は蛾濠恵美に関して詳しく調べていく。するとある文に目を付けた。 『志紋寿梨とは昔からの幼馴染である』 ――あの新人刑事が…? 鏡はさらにパソコンを動かしていく。 『カポネ』のアジトでは蛾濠が暇を持て余していた。 「ホントに暇よね。こんな幽閉された世界なんて」 「落ち着いて下さい。今、我らの構成員が動いておりますので」 「親友に会う為にはもう暫し我慢が必要かと」 蛾濠は不意に立ち上がり、幼い頃に志紋と共に写っている写真を取り出す。 「寿梨ちゃん。今どこで何しているのかな…」 蛾濠は泣きそうな声で呟いた。 翌日、なんと三島風香が自首してきた。神奈川県警では志紋が取り調べにあたっている。 「東根君は私が殺しました」 「…」 志紋は厳しい視線を三島に向けている。 「どうせ娘さんもアンタがやったんでしょ」 三島は黙秘を続けている。志紋は机を叩いて威圧的に叫んだ。 「黙ってないで何とか言えよ!」 「…」 三島は怯えてしまい、話す気力を無くしている。そこに倉木がやって来た。 「よせ!取り調べは中止だ!」 「どうしてですか!」 「とにかく外へ出ろ」 志紋は倉木と共に外に出る。志紋は恨めしそうな目を三島に向ける。 取調室の外で倉木は志紋を叱責する。その口調はまるで被害者を取り調べするかのようだ。 「警察官にとって一番やっていけないのは何だ」 「…」 志紋はすぐに答えられない。 「罪をでっち上げる事、お前が一番嫌っている事だろう。警察学校で散々教えたはずだぞ。それを忘れたのか」 「ええ。ですが――」 「言い訳は必要ない。確かに東根真司の殺害に関しては現場から殺害に使ったロープが発見され結果は一致した。しかし娘を殺害したという証拠は一切ない」 倉木は志紋の言い訳を遮った。 「そして今、特殊捜査員であるUnder Dの一員が捜索中だ」 「何であんな無法者を信用するんですか…⁉あんな連中に任せておけないですよ…!」 「信用するかしないかは各々の自由だからな。別に信用したくなければそれで良い」 すると、倉木の携帯が鳴った。江利賀からである。 「三島汐里殺しの証拠は見つかったか」 『見つかんなかったですね。ただ――』 「何だ。その楽し気な口調なら何かあっただろ」 『大正解です。三島の娘が書いたとされる日記みたいなのがありました。今から戻るんで、相棒のポンコツ警察官と共にそっちに来てもらえますか』 「それはいくら何でも言いすぎよ。でも分かったわ。今から向かう」 倉木は電話を切り、志紋の方を振り返る。 「特殊捜査員の方が優秀だぞ、ポンコツ警察官よりも」 「な…何ですって…⁉」 「そう言われるのが嫌なら優秀な警察官になれ。お前も来い」 数時間前―― 江利賀は三島の家にピッキングで侵入をしていた。共にいた鏡は呆れる表情を見せる。 「本当に開けちゃうんですね。貴方にプライバシーってものは無いんですか?油断も隙も無いですよ」 「お前もやるか?楽しいぞ」 「遠慮しておきます」 言い合いながら2人は家に入っていく。 2人は周辺を警戒しながら捜索していく。すると通信機越しから取り調べしている声が聞こえた。2人はその声を聞いている。 「何やら取調室が騒がしいですね」 「荷が重すぎんだろ。ポンコツ警察官に取り調べさせるとか」 「その軽い口調どうにかならないんですか」 江利賀は鏡の文句を無視して捜索していく。すると江利賀は手掛かりになるような物を見つけた。それはノートだった。江利賀はそのノートを開いていく。ページを順番にめくっていくが、途端に表情が険しくなっていった。鏡がおずおずと尋ねる。 「そんな顔してどうしたんですか」 「とりあえず中身を見てみなよ。これは何かヤバい匂いがするよ」 江利賀は鏡にノートを差し出す。鏡はページをめくっていくが血の気が引いていく。 「いくら何でも――」 「ヤバいだろ?子供のやる事にしては恐ろしすぎるよなぁ」 「でも、これは母が娘を殺していない証拠になりますよ」 「ああ」 江利賀はスマホを取り出して倉木に電話を掛けた。 三島の取り調べ終了後、Under Dは全員集まっていた。倉木と志紋もその部屋にいる。瀞枝が志紋に声をかける。 「ヘタクソな取り調べだったな。いくら何でも自白の強要は後で問題になるぞ。倉木さんも監督不行届で危うく処分の対象だよ」 「貴方に何がわかるんですか」 「瀞枝さんはこれでも元警察官だから」 怒りが収まらない志紋を氷川がフォローする。綺堂は江利賀に尋ねる。 「それで、そのノートには何が書かれてるんだよ」 江利賀はそのページを開いたまま、綺堂に手渡す。綺堂は「気持ち悪っ」といいノートを放り投げた。 「ヤバいっしょ?」 「子供のやる事じゃねぇだろ。いくら何でも」 鏡はパソコンを操作して東根真司と三島汐里の顔写真を表示させる。 「2人の間に何らかのトラブルがあった。恐らくこのノートに書かれていることが事実だとしたら…」 「ターゲットは三島風香では無い」と倉木が呟く。 「真のターゲットは、東根真司の母親…?」と志紋。 「正解。ポンコツ警察官に3000点」 江利賀は志紋を馬鹿にしたような口調で答える。 「侮辱罪で訴えますよ」 「そういう事は三島汐里を殺した犯人に手錠をかけてから言いなよ」 「くっ…」 志紋は何も言い返すことができない。 「今回の本当のターゲットは東根真司の母親、東根雪子だ。こいつを突っつけば何かしら出るかもしれないな」 その頃、国馬は警察本部長室にて中川に呼び出されていた。 「いけませんねぇ。自白の強要とは」 「申し訳ありません、ですが――」 「彼女が娘を殺したという証拠はないでしょう?その三島風香の娘を殺した真犯人を逮捕してください。2日間以内にね。できなければUnder Dは解散しましょう」 「わかりました…」 その夜、鏡は三島汐里が最後に消息を絶った場所の防犯カメラを徹底的に調べていた。防犯カメラに写っている人物を1人ずつ確認していく。そこに志紋がただ一人でやって来た。 「お疲れ様です…」 志紋は空いているベンチに座る。鏡はチラッと志紋の方を見たが気にする事無くパソコンを動かしている。 「白いモノは白い、黒いモノは黒いですよ。志紋さん」 「いきなり何ですか…?」 「三島風香が娘を殺していない証拠が出てきたんですよ。この画像とそのノート」 鏡は画像を映し出す。その画像には三島風香と汐里のいた位置が表示されている。2人の距離は大幅に離れている。 「こんな事が…?」 「ええ、これが決定的な証拠です。そして三島汐里を殺した犯人も突き止めました。その人物は東根真司の母親である東根雪子です」 志紋はただ驚いている。鏡はそんな志紋にドヤ顔を見せた。 「驚きました?これがホワイトハッカー『パール』の実力です」 志紋は鏡に尋ねる。 「何故、貴方はこんな事をやっているんですか…?」 「私、天涯孤独の身なんです。そんな私を江利賀さん、そして国馬さんが信じてくれた」 志紋は何も言わずただ黙って聞いている。 「私は性犯罪の被害に遭ったことがあるんです。私と同じ思いをする人間を減らしたい。だから私はここにいる」 鏡はそう言った後、再びパソコンを動かしていく。志紋はその様子をただ眺めることしかできなかった。 翌日、Under Dの面々は全員揃っていた。瀞枝が鏡を労う。 「ご苦労さんだったな。お嬢ちゃん」 「それで三島汐里を殺した犯人も突き止めたんだってな」 綺堂も鏡に声をかける。 「この天才ハッカー『パール』にかかれば、もう犯人も網の中です」 「自分で天才って言うか」 氷川はボソッと呟く、聞いていた鏡は厳しい目線を氷川に向ける。 「何か言いました?」 「あ、いや、何でもない…」 江利賀は黙想して何か考えている。鏡は声をかける。 「さっきからずっとその姿勢ですけど」 「俺が今閃いたプランを言っていい?」 「え?」 「東根雪子に対してあのノートを突き付ける。それ一択」 綺堂は驚いている。 「随分と直接的だな」 「回りくどい策なんて使っている場合じゃないでしょ。時間がないんだから」 瀞枝は江利賀にサムズアップする。江利賀も笑顔で返した。 「それで、彼女が現れそうな場所は目星ついているのか?」 「逃したらお終いだぞ」 綺堂と氷川の疑問に鏡は答えた。 「その辺も調べていますからご心配なく。今日は学校の授業参観日。彼女はPTAの会長を務めていますから嫌でもやってくるはずです。GPSもハッキングしてますから」 するとGPSの位置情報が止まった。その場所は小学校だった。 「大ビンゴだな。とにかく、その小学校に突撃するぞ。トロさん――」 「車だろ、ランボー。言われなくても準備するさ」 鏡以外のメンバーは立ち上がり準備する。 「お嬢。留守番は頼むぞ」 「わかりました」 石城小学校では既にPTAの会議が始められていた。そこに江利賀が突撃してきた。突然の出来事に教室の中はざわつき出す。江利賀はノートを東根の机に叩きつけて見せつけた。 「いきなり何なのよ!」 「このノートに書かれているものを全て読み上げてみろ。きっと驚くだろうなぁ」 東根はノートに書いている事を全て読む。周りがざわつき始めた。 「何の冗談なのよ!こんなの子供の悪戯の延長じゃない!私の息子はあの鬼女に殺されたのよ!」 すると綺堂と瀞枝と氷川がやってきた。志紋も同伴している。 「確かにあの女はお前の息子を殺した。それは事実だ」 「だが、お前の息子は彼女の娘さんの心を殺した。それも事実」 「最終的にはお前が娘さんの息の根を止めた。この写真にお前が三島汐里を誘拐した事実が映ってんだよ」 氷川は写真を東根の眼前に突きつける。東根は写真を奪い取って真っ二つに引き裂いた。 「証拠隠滅したとでも思ったか。そんな事しても無駄だぜ」 江利賀は呆れたように言う。志紋は東根の目の前に立つ。 「アンタこそ鬼女だ。その息子も鬼同然。10歳の少女に一生消えない傷を負わせて、終いには殺す。私はアンタを絶対に許さない」 志紋の表情は怒りを見せている。東根に手錠をかけた。 「東根雪子。殺人の容疑で逮捕する」 東根は観念し、項垂れるしかなかった。江利賀は志紋を煽る。 「良くやったな。ポンコツ警察官。後で盛大に祝ってやるよ」 「口の減らない男ですね。本当に手錠をかけましょうか?」 「おお怖っ」 江利賀はおどけて笑顔を見せた。 倉木は国馬に呼び出されてとある部屋にいた。 「この女は…?」 「蛾濠栄美。Under D捜査員の鏡真珠が突き止めました。彼女こそが志紋寿梨と関わりがある人物です。そして彼女こそが我々がUnder Dが追っている『カポネ』のリーダーです」 国馬はある事件の資料を倉木に手渡す。 「これは一体…?」 「蛾濠恵美の両親は15年前に逮捕されました。事件名は『墨田区女児殺害事件』」 「蛾濠恵美の両親は死亡している…」 「ええ、既に両方とも獄中で死亡しており、刑は確定していません」 倉木は資料をさらに読み進めていく。すると国馬の名前が記載されている。 「国馬さん…?」 「…」 翌日、Under Dの面々は鏡を除いて全員集まっていた。志紋もその部屋にいる。テレビではちょうど東根が連行される場面が映っている。江利賀は志紋に声をかける。 「どうだ、ポンコツ警察官。少しはスッキリしたか?」 「はい」 「早く一人前の警察官になりな。まぁ、くれぐれも俺みたいなダメ警察官にはなるなよ」 瀞枝は軽快なジョークを飛ばす。氷川は瀞枝に尋ねる。 「え、何かあったの?トロさん」 「昔な。まぁ色々あったんだよ」 「へぇ~。どんな感じだったんですか?」 「ここでは言えないさ」 綺堂の問いに瀞枝は話を誤魔化す。そこにはいつもの日常があった。志紋は笑みを浮かべている。その表情はどこか穏やかだ。 一方、1人で大学にいる鏡はパソコンを操作していた。慣れた手つきで動かしている鏡だったが、とある名前を見て手が止まった。 『鮮見友里子』 ――母が何故この事件に…? 鏡は疑念を抱く。 蛾濠は暗い路地裏を1人で歩いていた。 「寿梨ちゃん。どこで何をしているのかな。私が救い出してあげるわ…」 蛾濠は狂った笑みを顔に浮かべていた。
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