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CASE3
過去――
蛾濠は当てもなく路地裏を彷徨っていた。そこに現れたのは仮面をつけた男だ。その声はくぐもっている。
「アンタ誰なの…?」
「私と一緒に来ないか?永遠に続く楽しい世界へと」
現在――
蛾濠はカポネのアジトで一人佇んでいた。そこに庵部がやって来た。
「一体何の用よ」
「またしても構成員が逮捕されたようですね」
「あんなの放っておきなさいよ。どうせ使い捨てだし。それよりもそこにいないでここから出て行って」
庵部は部屋から去っていく。すると入れ違いで由城が入ってきた。
「聞いておられますか、蛾濠様。貴方が探している友達のことですが――」
「それがどうかしたの」
「彼女の所在に関して未だわかっていません」
「そう…」
蛾濠は悲しげな表情を浮かべる。由城は部屋から出ていく。蛾濠はそっと写真を手に取る。そこには2人の幼い少女が映っている。蛾濠はその写真を握りつぶす。
鏡は志紋をUnder Dの部屋に呼び出した。
「いったい何の用ですか」
「蛾濠栄美と貴方は接点があったんですね。15年前から」
「そこまで調べたんですか…」
「何があったのか詳しく教えていただけませんか」
Under Dの部屋のモニターには志紋と蛾濠の写真が両方映し出されていた。志紋は当時の出来事を話し始める。
「私と恵美は親友でした。あの時までは…」
志紋の言葉には深い後悔が滲んでいる。
「15年前の事件をきっかけに私達は引き裂かれてしまった。両親を逮捕され、栄美はその後、児童支援自立施設に送られました」
鏡は何も言い出せなかった。志紋はまたも続ける。
「両親は無罪を訴えていた。それでも被害者に最後に接触した事が両親であったことから、真っ先に逮捕された」
「志紋さんは今でも蛾濠栄美の両親が犯人じゃないと思っているんですか」
「ええ。あんなに優しい両親があのような事をするとは思えません」
志紋は少し切ない表情を浮かべている。そこに国馬がやって来た。
「こんな早くから、一体何をしているんですか」
「国馬さん。貴方にも聞きたい事があるんですよ」
「どういう事でしょうか…?」
「私の母が15年前の事件に関わっていた。その事を知っていて私をこの組織に入れたんですか…?」
「それは…」
国馬は言葉に詰まり、二の句が継げない。そこに他の4人がやってきた。
「おお?朝っぱらからキャットファイト?」
「何かおもしろいことでもやってんの?」
江利賀と綺堂が揃って煽る。すると背後から頭を叩かれた。瀞枝が手にしていた新聞で2人の頭を叩いたのだ。
「バカモノ。調子に乗るんじゃない」
「全く、お前ら似た者同士だな。空気を読め」
「すいませーん」
氷川の叱責に江利賀は軽い口調で答える。するともう一発瀞枝から新聞で叩かれた。4人は各自の席に座る。
「その話はまた今度の機会に」
そう言って志紋は部屋から退出していこうとする。すると江利賀が引き留めた。
「ちょうど良い機会じゃない。新人警官。ここで何が行われているか見てみなよ」
志紋は踵を返しモニターに目を向ける。国馬はモニターを操作して、ある人物の顔写真を表示させる。
「澤崎剛史。44歳。彼は既に拘留中です」
氷川は気怠そうに尋ねる。
「拘留中って…彼は一体何をやったんですか」
「簡単に言ってしまえば、痴漢です」
「くだらねぇ」
綺堂は吐き捨てる。鏡も国馬に尋ねる。
「なんで、性犯罪者であるこの男を調べなきゃいけないんですか」
「逮捕されましたが、不自然な点が多すぎる為です」
「いわゆる痴漢冤罪って奴?恐ろしい世の中だねぇ」
瀞枝がそう呟くと同時にモニターにはその当時の電車内の映像に切り変わる。
しばらく見ていたが、志紋がある事に気づいた。
「この澤崎っていう人、左手は手すりを持っていて、右手はポケットに手を突っ込んでますね。こんな状態では出来ないはずですよ」
「やる気になったか?ダメポリスが」
「本当に訴えますよ?」
「はいはい」
怒っている志紋を軽く流し、江利賀は続ける。
「映像を見る限り、女のほうからぶつかってきている。そしてもう一人の男が澤崎の腕を掴んだ。これで私人逮捕が成立している」
「それで、警察の状況は?」
鏡が志紋に話を振る。
「3人の取り調べを倉木さんが行っていますが、3人の供述は食い違っています」
「なるほど。俺達で少し調べ直す必要性があるな」
倉木は3人の取り調べを終えたばかりだった。そこに志紋がやって来た。
「お疲れ様です」
「どこに行っていた。心配したぞ」
「Under Dの部屋に行っていました」
志紋は簡潔に答える。
「お前から行く事は無いだろう。誰かに呼び出されて行ったんだろ」
「鏡さんから呼ばれて、15年前の事件に関して――」
「喋ったのか」
「ええ。鏡さんだけには話しました」
倉木は大きく息を吐く。
「余分な事は喋らないほうが良い。もし話すのであれば相手を選べ」
「はい。それとUnder Dで扱っている痴漢冤罪の件ですけど――」
「3人の意見は確かに食い違っている。そこを崩すんだ」
「わかりました。澤崎の取り調べをやらせて下さい」
倉木は少し悩んだ後答えた。
「出来るのか?ミスったら承知しないぞ」
「わかっています」
志紋の口調は力強く、どこか頼り気があった。
一方、Under Dの面々はその案件に関して検証が続けられていた。鏡は電車に乗っていた男女の顔を突き止めた。それぞれの名前を読み上げていく。
「女性の方は北村亜子。18歳、男性は駒谷幸弘。30歳」
「男女2人組。何か共謀しているのは間違いないだろうな」
「おまけに3人の供述は食い違っている。果たして誰が嘘をついているか」
瀞枝がぼそっと呟いた。
「そりゃあ難しいわな。痴漢冤罪事件というのは」
「どういう事ですか?」
鏡は瀞枝に尋ねる。瀞枝は滑らかに口を喋りだした。
「刑事裁判における犯罪を証明するには警察とかが証拠を提出する必要がある。それが痴漢の場合は物的証拠がほとんど残らないんだ。何故だかわかるか?お嬢ちゃん」
鏡は少し考えている。しばらくしてから何か閃いたような表情をした。
「被害者の証言と被疑者の自白程度しか証拠になるようなものがないからですか?」
「まぁ、その通り。痴漢をしていないことを証明するのは非常に困難だ」
鏡は振り向いてパソコンを再び操作する。すると氷川が話しかける。
「なぁ、今回ってなんで干支一回り分も年が離れているこの2人が関わっているんだ?」
「それ偶然じゃね?」
「いや、偶然じゃなさそうですよ」
綺堂の意見を鏡はあっさりと否定する。江利賀は鏡に尋ねた。
「何だこれ?」
「出会い系サイトですよ。2人は繋がっていたんです。しっかり証拠が残ってますから」
「美人局って奴?」
「美人局って何ですか?」
鏡の一言に他の4人は一斉にズッコケた。綺堂が脱力しながら答える。
「全く世間知らずの小娘は。男女がグルになって行う詐欺行為の一種だよ」
「それで捕まりそうなチャラそうな風貌してますね」
「うるせぇ」
2人の言い争いを収めるように江利賀は言う。
「トロさん。もしかするとこの女、美人局の常習犯かも知れないですよ」
「ああ、18歳未満の女性だとすると被害者の男性も児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律に問われる」
「警察に被害届や告訴状が出す事が出来ず、泣き寝入りになりやすい。加害者側はそれを見越しているだろうな」
すると、鏡のスマートフォンが鳴った。志紋からである。
「はい。鏡です」
『志紋です。鏡さん、少し頼みがあるんですけど』
「頼みとは…?」
『今から澤崎を取り調べるんですけど、取調室のモニターにあの映像を映し出せますか?』
「わかりました。やってみます」
電話を切った鏡はすぐさまパソコンを操作する。その様子を見て瀞枝が声を掛ける。
「どうしたんだ」
「志紋さんが澤崎を取り調べるそうです。今からその準備を」
それを聞いた江利賀の口調はどうか楽しそうだ。
「ダメポリスのお手並み拝見といこうか」
その頃、志紋は澤崎の取り調べにあたっていた。澤崎は既に疲労困憊気味だ。
「刑事さん…私はやっていません…」
「はい。その通りですね」
あっさり過ぎるリアクションに澤崎は言葉を失った。
「この映像を見てください」
取調室のモニターは当時の映像に切り替わった。
『志紋さん。後はよろしくお願いします』
「任せてください」
志紋は一つ息をした後、澤崎に話しかける。
「これが決定的な証拠です。貴方はこの2人に嵌められた」
「そんな…」
澤崎は意気消沈し肩を落とす。
「でも、もうすぐにここを出られるかもしれません」
「信じていいんですか…?」
その時、取調室のドアが開いて倉木がやって来た。
「ええ。信じていいですよ。私のチームは優秀な人材が揃っていますので」
「じゃあ、後は彼らにお任せしましょう」
その取調べの内容をUnder Dの面々は驚いていた。綺堂と氷川が感嘆の声をあげる。
「おいおい、俺達に丸投げかよ」
「いきなりムチャブリされても困るんですけど」
そんな2人を鏡は諫めるように言った。
「別にいいじゃないですか?私達が信用されている証拠って事ですし」
「そうだな」
瀞枝も鏡に同意する。江利賀は叫んだ。
「じゃあ、いっちょやってやりますか。俺達地下探偵集団が」
倉木は犯罪対策室を訪れていた。
「そもそも亜嵐君をなんでこのUnder Dに招いたんですか。彼にまだちゃんと説明していませんよね」
「貴方の父親である倉木春影からの指示です。彼を預けるように言われました」
「どうして…?」
倉木は言葉を失う。
「彼は貴方の父がやった事の不正を暴いた。もしかするとUnder Dの触れてはいけない部分に触れるかも――」
「不正を守るのが警察官のすることですか」
国馬の声は倉木によってかき消される。倉木がすかさず続けた。
「貴方が彼を危険だと思うならそうすれば良いです。ですが私は、彼を、江利賀亜嵐を信じます。同じ思いを持った人間として」
倉木は犯罪対策室を去って行く。国馬は江利賀に関する書類を放り投げる。
その頃、江利賀と氷川は北村の行方を追っている最中だ。
「中々尻尾を出しませんね」
「かなり手強い相手だな」
2人は話しながら作戦を練っている。すると物陰から人が通った。それは北村だった。北村は何やら親しげに中年の男性と話しているようだ。氷川はその様子を見てカメラを取り出しシャッターを切る。2人はすぐに隠れた。
「バレてないですよね」
「当然だろ。シャッター音が出ない尾行用のカメラ使っているんだからな」
氷川は写真を確認する。
「この男、駒谷では無いな?」
「ええ。彼はそんなに小太りではありませんし、頭髪の方も後退していません」
「とにかく奴を追う。鏡、奴のGPSをサーチしてくれ」
江利賀と氷川は北村を追いかけていく。
北村を追いかけた江利賀と氷川が到着した先はとあるホテルだった。
『北村のGPS情報がここで途絶えました』
「了解」
その時、もう一人の男性がホテルの中に入っていった。氷川はその様子を撮影する。江利賀はその写真を覗き込む。
「もしかすると今のが駒谷の可能性もあるな」
「だったら、突っ込むしかないでしょ」
「やめとけ。決定的な証拠はまだ揃っていない」
「わかりましたよ」
やがて全員が部屋に出揃った。倉木もその部屋にいて、作戦会議が進められる。江利賀がまず話を始める。
「北村があのホテルに入っていったのは恐らく、カモを誘き出すためだ」
「写真を見る辺りやってるな。鏡、写真の解析はまだか」
「まだですね。もう少しかかります」
鏡はパソコンをひたすら操作しながら答える。
「それで、警察の方はどうなったんですか?」
「3人を再び取り調べしてみたが、どう見ても供述に辻褄が合わない。特に北村は被害に合った時のスカートの提出を何かにつけては拒んでいる」
綺堂は倉木に尋ねる。
「という事は衣服の繊維鑑定は出来ないって事ですよね?」
「ああ」
「まぁ、繊維鑑定は絶対ではないわな」
瀞枝も倉木に同意するかのように言う。その時、鏡が「画像解析が終わりました」と声をあげた。
「どうだったんだ。お嬢」
「駒谷幸弘で間違いありません」
「おお。流石ホワイトハッカー『パール』の実力発揮」
そんな中、江利賀はスマホを操作している。倉木は江利賀の元に駆け寄る。
「何をしてるんだ」
「ちょっと出会い系サイトで良い女でも探してみようかなって思って」
「やめておきな。お前はろくでもない女を引っかけてきそうだから」
「わかりましたよ」
江利賀はスマホをしまう。すると鏡が「出会い系サイト…?」と呟く。そしてハッとしたのかゲーミングチェアを後ろに向ける。
「急にどうした小娘。いきなり後ろを向いて」
「その出会い系サイトを利用して2人を逮捕するっていうのはどうでしょうか」
氷川は少し呆れ気味に答える。
「あのなぁ、何を言い出すかと思えば――」
「いや、良いんじゃね。その作戦」
江利賀は氷川の話を強引に遮った。
「『目には目を、歯には歯を』ってか」
「面白いことを考えるじゃないか。お嬢」
「じゃあ、早速だけど倉木さん。頼むわ」
「え、私が⁉」
江利賀のムチャぶりに倉木は困惑気味だ。氷川が援護射撃をする。
「そうですよ。俺たちにムチャぶりをしてきてるんですから、手本を見せてくださいよ」
「倉木さんが大人の色気を出してくれれば、あんな奴イチコロでしょ」
「調子に乗るんじゃない」
倉木は江利賀の肩に思いっきりパンチをする。
「まぁ良いわ。あの2人にちょっと本気を見せてあげようかしら。警察を舐めていると痛い目に合うってね」
翌日、待ち合せた場所となったホテルに倉木と駒谷が共にやってきた。2人はチェックインをして鍵を受け取った。
「この部屋ですね」
2人は鍵を受け取ってフロントを去っていく。ホテルの受付に扮していた氷川は小声で呟く。
「603」
氷川は2人の姿を眺めていた。
2人は世間話をしながら603号室に入っていく。ホテルマンに扮している江利賀はその姿を確認した。
「氷川さん。部屋への入室を確認できました」
『了解。例の作戦を実行に移す。鏡、準備はいいか』
江利賀はドアに聞き耳を立ててその様子を聞いていた。
部屋では倉木と駒谷の2人きりになった。倉木が先に声をかける。
「ねぇ、楽しい事してみない?」
「ほう。どんな事だ?」
「こういう事よ」
倉木はいきなり駒谷にハグをする。
「案外、強引な女なんだな。気に入ったぜ」
「あらそう。やるなら今の内よ」
すると突然、部屋が真っ暗になった。駒谷は突然騒ぎ出す。何か腕で捻じられている感覚がした。
「おい、早く電気を点けろよ!」
その言葉に電気が点いた。見ると駒谷の手は手錠で繋がれている。江利賀はその部屋に入ってきた。
「コングラッチュレーションズ!逮捕おめでとう!」
「これは何の真似だ!」
「言ってなかったかしら?私は警察官だって」
倉木は駒谷に警察手帳をかざす。駒谷は尚も理解できていないようだ。
「な…?」
「最初から逮捕することが狙いだったって訳。ハニートラップする人間って案外騙されやすいのね」
「この暗闇の中どうやって手錠をかけたんだ!」
「一から十まで説明してやるよ」
そういって江利賀は部屋の電気を消した。倉木が語りだす。
「私の手に付いているのは暗闇で光る蛍光塗料だ。ハグをした時にお前の背中にこれでもかってくらい塗りまくった」
「そして、その瞬間に俺の仲間がこの部屋の電気をピンポイントでハッキングして照明を落とした。その仲間に代わってやろうか」
鏡はUnder Dの部屋で、氷川はフロントで江利賀と倉木の話を笑みを浮かべて聞いている。
『このホテルは全体的に脆弱。だから私の実力をもってすれば楽勝よ』
その時、江利賀のスマートフォンが鳴った。綺堂からだ。
「はい、江利賀」
『こちら綺堂、北村を確保した。そっちの状況は?』
「たった今、駒谷を確保しました」
『了解』
電話を切った江利賀は倉木に綺堂が話した事を耳打ちする。倉木は笑みを浮かべて江利賀とグータッチを交わした。
「残念だったな。お前の連れも警察が確保した」
「…」
「虚偽告訴で逮捕するからな。罪をでっちあげておいてタダで済むと思うなよ」
倉木は駒谷を立ち上がらせて連行していった。
同じ頃――
瀞枝は北村に連れられてホテルに入っていった。
「この部屋で楽しい事しようよ」
「おお。どんな事かな?」
2人は部屋に入り北村が電気を点ける。そこにいたのは綺堂だった。
「だ、誰よ!アンタ!」
「18歳の子が美人局とは随分と姑息な手口を考えたんだな。だが、下らないお遊びもここまでだ」
「どういう事よ!話が違うじゃない!あいつらはどこで何やってんのよ!」
「それはこれの事か?」
綺堂は布団を捲る。そこには北村の仲間と思われる男2人が拘束されていた。
「どうして――」
「どうせこういう事になると予想していたからな。先回りしていたんだよ。案の定過ぎて笑っちまったけど」
北村は逃げようとする。瀞枝は咄嗟に北村の腕を掴んだ。
「離して!おっさん!」
「私に対しておっさんとは全く失礼だなぁ。この瀞枝聖也、華の51歳、イケてるオジさんだぞ」
すると、志紋が部屋に入ってきた。瀞枝にツッコミを入れる。
「それ全然自慢になってませんよ。瀞枝さん」
「いーや、どう見えても私は――」
「どっからどう見てもただのおっさんでしょ。トロさん」
綺堂のツッコミをスルーして、志紋は北村の手に手錠をかける。
「ちょっと、何これ!」
「虚偽申告罪で逮捕します。貴方には事件の供述をきっちりと説明して頂く義務があります。覚悟しておいて下さい」
北村はその場に崩れ落ちた。綺堂ポケットからスマホを取り出して江利賀に電話をかける。江利賀はワンコールでその電話に出た。
『はい、江利賀』
「こちら綺堂、北村を確保した。そっちの状況は?」
『たった今、駒谷を確保しました』
「了解」
綺堂は電話を切り、瀞枝に電話の内容を伝える。
「向こうも無事に終わったって事だ。よし、ミッション成功!」
「そうですね。帰りますか」
綺堂と瀞枝は笑みを浮かべて肘タッチをした。
翌日、澤崎は釈放されて警察署の外に出た。志紋が付き添っている。
「これでようやく自由の身だ。刑事さん、ありがとうございます」
「ええ、胸を張ってやって無いと言っていいですよ」
澤崎は歩き出した。志紋は一礼してその姿を見送る。
江利賀はUnder Dの倉庫で調べ物をしていた。メンバーにまつわる資料がファイルに整理整頓されている。江利賀はその中から綺堂、瀞枝、氷川の3人の資料を手に取って一通り閲覧する。持ち出して倉庫から出ようとした瞬間、国馬とばったり遭遇した。
「どうやって入ったんですか…」
「扉を開けることなんて、朝飯前ですよ」
江利賀はピッキングツールを取り出しながら笑顔で答える。
「ここは私以外の人は絶対に立ち入ってはならない場所。ましてやこの資料は絶対に外部に持ち出しは厳禁です」
「貴方だけじゃなさそうですよね。このUnder Dを創ったのは」
「…」
国馬は何も答えられない。
「俺を疑っているんですか。倉木さんを俺の監視役に選んだのもアンタでしょ」
「ええ。そうですよ」
「そんな事をして一体何がしたいんですか?」
江利賀と国馬は暫しの間、睨みあっていた。
カポネのアジトでは由城が上機嫌で入ってきた。庵部がその様子を訝しむ。
「何でそんなに機嫌が良いんだ」
「面白そうな獲物を見つけたんでな」
由城はそう言いながら一枚の写真を見せる。その写真はなんと鏡真珠だった。
蛾堀は写真を奪い凝視している。
「へぇ。結構可愛いじゃん。でもどこか闇を抱えていそうな感じよね」
「どうやら、明智大学に在籍しているらしい。こいつを使って何か面白い事を考え付いた。ゾクゾクするぜ」
由城は不敵な笑みを浮かべていた。
とある日、鏡は母である鮮見友里子の墓を訪れていた。鏡はマーガレットの花を供えてその場を去っていく。
「あいつが鏡真珠か…」
そう呟いたのは由城だ。由城は鏡が去ってしばらくした後、マーガレットの花を抜き取り、握り潰して上に投げる。花弁はすべて散った。
「これから自分の身がどういう事になるか、怯えて待っているがいい…!」
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