CASE7

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CASE7

通報のあった場所に志紋はやって来ていた。入った先に見た光景に言葉を失った。1人の若い女性が首を吊って自殺していた。 「警察の方ですか?」 「はい」 「私がここのアパートの大家です。今日は家賃を払う日だったのですが、連絡が付かず反応が無くて連絡したらこんな事に…」 志紋は周辺を見渡す。すると遺書らしき物があった。手に取りその文章を見る。遺書にはこう記されてあった。 『生きるのに飽きた。私はSNSが引き金で死ぬ』 志紋はただその遺書を眺めていた。 Under Dの部屋には氷川と鏡の2人しかいなかった。氷川は以前に勤めていた『週刊誌エデン』を読んでいる。鏡はパソコンに向かってはいるのだが、どこか魂が抜けたかのように腑抜けになっている。そんな鏡に氷川が声をかける。 「どうした。手が止まってるけど何か嫌なことでもあったか」 「怖い夢を見たんです…」 鏡の話し声は何やら小さい。 「自分が誹謗中傷される夢を見たんです。変ですよね、こんな事言って」 「いや、変でも何でもない。そんな事は誰にでも起こり得る事だ。俺も昔、真実を書いたつもりが捻じ曲げられた過去がある。俺もあの時は当事者として責任を取らされることになり、大炎上した後、記者を辞めてここにいるって訳だ」 「そうだったんですね…」 「俺が欲しいのは真実を追求する事だけだ」 その時、志紋がUnder Dの部屋に入ってきた。2人しかない事を訝しんでる。 「あれ、他の皆様はどうしたんですか?」 「所用で出掛けてますけど、何かあったんですか?」 「わかりました。すみません急に押しかけて来てしまって…」 志紋は部屋を出ていこうとする。それを氷川が呼び止めた。 「待て、ここまで来ておいて立ち去るなんてそれはないだろう。何かあるからここに来たんだろ」 志紋は引き返して氷川と鏡に事情を説明する。 「アパートに住んでいる1人の女性が首を吊っていました。第一発見者はアパートの大家。女性の名は富久山夏帆、33歳。病院に運ばれましたが死亡が確認されました」 氷川と鏡は写真を見る。 「富久山夏帆ってあの有名なミュージカル女優じゃ…?」 「富久山…?まさか…⁉」 氷川は狼狽える。鏡はそんな氷川の様子が気になり声をかける。 「どうしたんですか?彼女とは何か関係が?」 「富久山は俺の幼馴染だ。なんでこういう事に…」 その時、氷川のスマホが鳴った。電話は非通知の設定だ。 「はい、氷川です」 『祐一君、元気か…』 電話の声は富久山の父親である昭三だ。 「富久山さん、お久しぶりです。娘さんの事ですか?」 『ああ、そうだ。娘が首を吊って…』 「話は全て聞いています。冨久山さん。今から会う事は出来ますか?」 『わかりました…』 氷川は電話を切った後、志紋に視線を向ける。 「アイツに何があったんだ…?志紋、部屋に入った時に何か思い当たるような証拠品みたいなのはあったか?」 「それがこの遺書です」 氷川はその遺書を受け取る。鏡もその遺書を覗き見た。読んだ後氷川は遺書を握りつぶす。 「クソッタレが…!」 「氷川さん、落ち着いてください」 氷川は声を上げて遺書を放り投げた。 「幼馴染を殺されて落ち着いていられるか…⁉鏡、お前も一緒に行くぞ」 「ちょっと待ってくださいよ!」 氷川は勢い良く部屋を飛び出していく。鏡も後から追いかけた。 氷川と鏡が向かった先には既に富久山昭三がいた。2人は富久山に会釈をする。富久山は落ち込んでいるようだ。 「祐一君、すまない…」 「いや、貴方が謝る必要はありませんよ」 氷川と鏡は椅子に座る。 「君は…?」 「氷川さんの仕事仲間です。娘さんは氷川さんと幼馴染だったんですか」 「はい。幼い頃から娘の事をずっと応援すると言ってくれたんです。何故こんな事になったのか全く見当もつきません…」 氷川は富久山に声をかける。 「娘さんは何者からかSNSで誹謗中傷を受けていたそうです。遺書の中にもその事を伺える文章が書いてありました」 「な…」 富久山は肩を落とす。そして氷川の肩を掴んだ。富久山の目には涙が浮かんでいる。 「祐一君。どうか娘の仇を取ってくれ。君は敏腕記者なんだろ?」 「いや、俺は…」 氷川はどう答えようか迷っている。横から鏡が口を挟んだ。 「わかりました。今回の件、私達で引き受けます。私もホワイトハッカーですから。娘さんを殺した犯人を絶対に暴いて見せます」 鏡の宣言に氷川は驚いている。 「おい、いくら何でも無茶な――」 「氷川さん、仮にも『元』記者ですよね。暴こうとは思わないんですか」 「全く…」 氷川は呆れたように溜息をつく。そして富久山にこう言った。 「この案件を引き受けます。娘さんの死を無駄にはしません。必ず真相を暴いて見せます」 氷川の力強い言葉に鏡は笑みを見せた。 カポネのアジトでは庵部が覆面を被った男と面会をしていた。庵部は札束を男に渡す。 「由城の居場所は未だ掴めていませんか?」 覆面の男は首を横に振っている。 「そうですか。引き続きお願いしますよ」 覆面を被った男は立ち上がって去って行く。蛾濠とすれ違う形になった。 「ホント、あの覆面男って信用ならないわよ」 「フン。君は誰も信用に値する人間がいないという事か。全く哀れな女だ」 蛾濠は威圧的な態度を取り、庵部の腕を掴む。 「何か言った?」 「いいえ。何も私は言ってませんよ?」 庵部は蛾濠の手を振り解いた。そして手をブラブラさせる。 「乱暴な女は嫌いだよ。気をつけたまえ」 庵部は振り返りアジトを去っていく。 「あのバカ男が…」 蛾濠は一言呟いた。その目には怒りが宿っている。 翌日、Under Dの部屋には氷川はいなかった。鏡は昨日の出来事を全員に説明する。 「俺には難しい問題だなぁ」 瀞枝が少し険しい顔を見せる。綺堂も続けた。 「大体、氷川が勝手に始めた事だろう。俺には関係ない」 「そんな…」 江利賀も知らん顔をする。 「その通り。俺達のやる事はカポネの壊滅だ。末端の出来事に関わっている暇はない」 その時、ドアが開いて国馬がやって来た。 「是非我々でやる必要があります。氷川君から昨日相談を受けていました」 「国馬さん?」 「SNSの誹謗中傷は昨今社会問題になっています。今回の富久山夏帆の件もそうです。誰もが被害者になり加害者になる可能性があります」 「だからと言って――」 綺堂の言い分を国馬はすぐに遮った。綺堂は蛇に睨まれた蛙のように固まる。 「綺堂さん、これは室長命令です。何か問題でもありますか」 「いえ…」 「とにかく、この案件が終了するまでは他の案件を受け入れないようにしますので、皆様よろしくお願いします」 国馬はそう言って部屋から出て行った。江利賀は体を伸ばす。 「室長命令なら仕方ないですよね。でも、俺も興味湧いて来ましたよ」 「ランボー。急にやる気になったな…」 瀞枝は江利賀の表情が急に変わった事に驚いている。綺堂も尋ねた。 「どうしたんだ。さっきと表情が全然違うぞ」 「誹謗中傷する奴の仮面を剥がしたいんですよ。一体どんな汚い顔をしているのかをね」 「やる気になりましたね。それでこそ江利賀さんですよ」 「もう異論はないですよね?under Dのリーダーである俺がやるって決めたんですから」 江利賀の言葉に綺堂と瀞枝も立ち上がった。 「誰がリーダーだ。でも、誹謗中傷したりする奴をボッコボコにしてやりてぇな」 「まぁ、他人が持ち込んだ案件はチーム全体の案件でもあるからな。そう言う訳でお嬢、全体の指揮は任せるぞ」 「私ですか⁉」 鏡は驚いている。 「ネットに強いのはお前だろ。お前の情報収集能力を頼りにしてるからな」 綺堂に煽てられたか、鏡も言葉に力強さがある。 「わかりました。絶対に暴き出しますよ。富久山夏帆を殺した犯人を」 志紋は倉木に今回のケースに関して話をしていた。 「透明人間を暴くか、中々面白いことを言うじゃないの」 「そんなに面白かったですか?」 「冗談よ」 倉木は軽快な笑みを浮かべる。志紋の表情は少し暗い。 「そんな暗い顔してどうしたのよ」 「縊死した人を見るのなんてこんなにも辛いんですね…」 「気持ちはわかるわよ。私も何人とそういうのを見てきたから。でも切り替えないといけないわ」 倉木は志紋の肩をパンパンと叩く。 「確かに彼女は自殺したかもしれない。でもこれは指殺人だから。のうのうと生きている人間を許しておけない」 「私も手錠をかけてやりたいです」 「その言葉が出るなら大丈夫そうね」 倉木は立ち上がり部屋を出ていく。志紋も追いかける。 一方、Under Dは氷川も加わり、捜査を続けていた。 「富久山の周辺の人間に聞き込みをしたんですけど、特に収穫は無かったですね」 「ご苦労だったな」 瀞枝は氷川にコーヒーを差し入れする。 「でも、誹謗中傷した人間を突き止めるのって時間とお金もかかるらしいから中々難しいんだろ?」 「訴訟へのハードルは高いですから。弁護士費用も高いですしね」 綺堂と江利賀が軽い会話を続けている中、鏡はパソコンを動かしている。 「それであっという間に誹謗中傷した人間が見つかれば苦労しませんよ。捨て垢を使う卑怯な人間はこの世にたくさんいるんですから。今回のようにね」 そうこうしている内に、鏡は誹謗中傷したアカウントを全て特定して見せた。そこには10件以上のアカウントが羅列されていた。その様子に他の4人は驚いている。 「こんなにもいるのかよ…」 「いや、違いますよ。これは全て同一人物です」 鏡は綺堂に対し冷静に答える。 「成程、ネットの正解だからできる技ってことか。それで誰だったんだ。その人物は」 「誹謗中傷を繰り返し行っていたのは土岐田学。週刊誌『エデン』の編集長ですね」 その言葉に氷川が反応する。何か物音が落ちる音がした。 「氷川さん…⁉どうしたんですか…?」 「許せねぇ…!あのクサレ外道が!」 氷川は部屋を出て行った。鏡も慌ててその姿を追う。江利賀達はその姿を見送る。 「氷川のアホ、取り乱すとはらしくないな」 「口が過ぎるぞ綺堂。だが、確かに冷静さを欠いている。何か妙な出来事に巻き込まれてなければ良いが…」 綺堂と瀞枝が口を揃えて心配する中、江利賀は不意に立ち上がり瀞枝に声をかけた。 「トロさん。車を出してくれませんか?行先は富久山昭三の自宅で」 「別に構わんが、どうしたんだ」 「何か胸騒ぎっていうか、嫌な予感がする。俺のただの勘かもしれないけれどね」 江利賀は部屋を出ていく。綺堂と瀞枝はお互いに顔を見合わせた。 氷川と鏡が乗り込んだ先は『エデン』だった。その先にいたのは氷川の天敵である土岐田だ。 「いきなり予告無しにやってくるとは、強引じゃないですか。氷川君」 「土岐田…!お前が富久山を殺したんだろうが…!」 氷川のその目には憤怒が宿っている。 「何を言うんだ。そんな出鱈目を」 「貴方が誹謗中傷した証拠があるんですよ」 鏡は土岐田に証拠となる書類を見せつける。土岐田はその紙をビリビリに破いた。 「こんなチビで出ベソなお嬢ちゃんの言うことなんて、誰も信じませんよ。大体こんなの不正アクセスされたんだから。このメンヘラ女が」 「何ですって…⁉」 鏡は土岐田に詰め寄ろうとする。それを氷川が肩を掴んで止めた。 「お前も、ガセネタを書いておいてよく平気でいられるよなぁ?」 「この野郎!」 「氷川さん、ダメです!」 鏡が氷川を止める。 「帰ってくれよ。もうここに用はないんだろ?」 氷川は舌打ちをしてその場を去っていく。鏡も追いかけていく。 『エデン』を出て行った2人は暫くの間沈黙していた。鏡は氷川に尋ねる。 「ガセネタってどういう事ですか…?」 氷川は何も答えない。鏡は氷川の目の前に立つ。 「答えてください!」 鏡がそう叫んだ瞬間、氷川のスマホが鳴った。 「何だと…⁉」 氷川はそう言ったきり、立ち止まっている。鏡はおずおずと尋ねた。 「どうしたんですか…?」 「富久山昭三が自殺未遂を図って病院に搬送された。俺はそこに行く。お前は先に部屋に戻っていろ」 「ちょっと、氷川さん⁉」 氷川は走り出す。鏡はその姿をただ見つめていた。 同じ頃、江利賀と綺堂は富久山の自宅に来ていた。綺堂は呼び出し音を連打して鳴らし続けているが、一向にやって来ない。すぐに車の中にいる瀞枝に報告する。 「トロさん、なかなか姿を現しませんよ」 『確かにランボーのいう通りかもな。これはかなり嫌な予感がする。ランボー、やるんだ』 「了解」 瀞枝の指令を受け、江利賀はピッキングツールを取り出した。少し時間がかかったが、何とか解錠する。2人は一斉に部屋の中に入った。すると思ってもない光景がそこにあった。なんと富久山が倒れていたのだ。 「おい!大丈夫か!」 綺堂は富久山の元に駆け寄る。どうやらまだ意識はあるようだ。 「トロさん。富久山が自殺未遂を図りました」 『何だと⁉容態は!?』 「まだ、意識はあります。トロさん、氷川さんに連絡をお願いします」 『わかった』 通信はそこで切れた。江利賀は周辺を見渡す。そこには遺書とは別に紙が1枚あった。江利賀はその紙を手に取る。そこには衝撃を受ける内容が書かれていた。 under Dの部屋に一人戻ってきた鏡は置いてあった『エデン』の記事を読んでいる。しばらくすると国馬が部屋にやって来た。 「お疲れ様です」 「戻られましたか。状況は全て聞いています」 「あの…」 「氷川君の事ですね。普段冷静な彼が何故こうにも熱くなっているのか…」 国馬は椅子に座り話し出した。 「簡単に言えば、氷川君は土岐田に嵌められたという事です」 鏡は驚いて表情が固まる。 「かつて氷川君はエデンの敏腕記者として有名でしたが、とある事件の記事を掲載したところ、それが大炎上する騒ぎになりました。その記事を書くようにけしかけていたのは他でもなく、土岐田学です」 「どうして…」 「蹴落とすために仕組んだとみても良いでしょう。土岐田からしてみれば氷川君の存在は邪魔でしかない。無論土岐田の書いた記事が正解だった。結果的に氷川君は立場を失う事になった」 「…」 「今、鏡さんが持っているその週刊誌は氷川君にとっての戒めだと思います。 ですが、鏡さん。貴方も気後れする事はありません。貴方の意思で皆をサポートしてあげて下さい」 国馬は部屋から退出していく。その手には拳が固く握られていた。 その頃、富久山は病院のベッドで目を覚ました所だった。 「ここは…」 「気が付きましたか?」 江利賀が声をかける。倉木と志紋が傍についている。 「被害届を出したら、殺すという脅迫状が届きました…被害届を取り下げたいと思います…」 その言葉を聞いた江利賀は富久山の胸倉を掴んだ。志紋が止めに入ろうとするが、倉木がそれを制した。 「それがどんな事か、一体わかってるんですか!被害届を取り下げてしまえばもう2度と真実を知ることが出来なくなるんですよ!」 江利賀は暫くして話し始めた。 「昔の話だ。俺は友人を通り魔事件で亡くした。そしてその犯人はその場で自殺して真実を知る機会を全て失った。でもアンタは娘さんの死に対して真実を知る機会がまだ残っている」 江利賀は手を放す。今度は志紋が富久山に尋ねる。 「些細な事でも良いです。何か教えて頂けますか」 「娘には、結婚を前提にした恋人がいました。その名は三木洋輔です」 江利賀はその名にピンと来たようだ。志紋も何か知っているリアクションを見せる。 「三木洋輔っていえば、有名なミュージカル俳優…」 「聞いたことがある。最近も舞台に出演してるな」 倉木は富久山に頭を下げる。上げた後こう告げた。 「我々警察もこの件に関して調査します。被害届は取り下げないで下さい」 江利賀は席を離れて、スマホを取り出して連絡を入れる。 『はい、綺堂』 「綺堂さん。三木洋輔に関してなんですけど――」 『ああ、話はすべて聞いていた。今から三木の所に向かう。何か隠している事があるかもしれないな』 「了解」 電話の後、江利賀は何かを考えていた。 綺堂と瀞枝は三木の元を訪ねていた。 「そうです…私が彼女の婚約者でした」 「何か気になる事はありませんでしたか?」 三木は黙ったまま俯いている。そんな中、瀞枝はボールペンを床に落としてしまった。瀞枝はおどけている。 「おっと、失礼」 「どんだけドジなんですか。トロさん」 瀞枝はボールペンを拾う。拾った後、三木に話しかける。 「三木さん、彼女は誹謗中傷を受けていたみたいですけど何か聞いてませんでしたか?」 「いえ、何も聞いてません…」 三木は何も答える事は無かった。 翌日、鏡はただ一人Under Dの部屋にいた。鏡はパソコンを操作して土岐田に関するデータを調べている。鏡は一つ一つデータを確認していく。すると何か重要な証拠を見つけたのかパソコンを動かす手が早くなっていく。氷川が来たのはその時だった。 「まだやってるのか」 「はい。絶対に土岐田の事を許しておけませんから」 鏡は台を思いっきり叩く。ゲーミングチェアを回転させ氷川に声をかける。 「氷川さん、まだ諦めてませんよね?」 「当たり前だろ。吹っ切れたよ。奴に復讐しない」 「え…?」 「奴にとっては全てがゲーム感覚みたいな感じだ。だから平気で人を傷つけても何とも思っていない」 氷川は立ち上がり鏡のいる所に駆け寄る。 「そこまで吹っ掛けるって事は、言い逃れ出来ないような証拠は見つけたんだろうな」 「ええ、重大すぎる証拠ですよ」 氷川は鏡が使っているパソコンを凝視する。 「やるな。流石だよ。これならもう言い逃れ出来ねぇな」 氷川はそう言って準備を始める。 「もう一度エデンに乗り込むぞ。鏡、いけるな」 「勿論です」 氷川と鏡が廊下を歩く所に国馬とすれ違った。 「国馬さん。今からエデンに向かいますんで」 「証拠はバッチリと掴んだんですね」 「はい。私達を止めても無駄なんで外出許可をお願いします」 国馬は笑みで返した。氷川と鏡は再び歩き出す。 エデンにやってきた氷川と鏡は土岐田の目の前に立つ。土岐田は2人に鬱陶し気な表情を見せる。 「何度やって来るんですか。大した証拠も無いのに」 「テメェの心が折れるまでな。だが、これで終わりだよ」 その言葉に土岐田は吹き出した。 「とうとう頭がいかれたか。あぁおかしい。笑いが止まらないよ」 「これを見ても、同じ事が言えますか?」 鏡が見せた書類を目にした瞬間、土岐田の表情が凍り付いた。 「な…?」 「これで心が折れましたか?」 土岐田は膝をついて崩れ落ちた。氷川が土岐田を立たせる。 「一寸の虫にも五分の魂、お前は侮りすぎたな。この証拠は言い逃れできない決定的な証拠だ。彼女が1人で探し当ててきたんだ」 そこに志紋がやってきた。土岐田に逮捕状を突き付ける。 「け、警察…」 「名誉毀損罪と侮辱罪で逮捕します。記者の立場である以上、言い訳は通じませんよ」 志紋は土岐田に手錠をかける。そこに鏡が志紋に何か話しかける。 「この男、むかつくんでちょっと一発殴っても良いですか?」 「良いですよ」 志紋は鏡に向かって微笑む。土岐田は得体の知れない恐怖を感じた。 「な、何をする気だ…?」 鏡は突然、土岐田の股間を殴った。殴られた痛みでお腹を抱えて動けなくなった。氷川は驚きのあまり声が出ない。 「チビで出ベソでメンヘラで悪かったですね。私を馬鹿にしすぎですよ」 鏡はうずくまる土岐田にそう吐き捨てた。 部屋に戻ってきた氷川と鏡を皆が出迎える。 「ご苦労だったな、鏡」 「はい。ありがとうございます」 氷川も大変そうな表情を浮かべている。 「本当大変でしたよ。鏡の奴、土岐田の股間をぶん殴って気絶させたんですから」 「氷川さん、やめて下さいよ。恥ずかしいですから」 鏡はそう言った後、パソコンを操作する。 「ようやく終わったか。何だか案外あっさり過ぎるな」 そんな中、瀞枝の表情が少し険しい。綺堂が声をかける。 「トロさん、何か気になる事があるんですか」 「ああ、今回の一件は土岐田が全てやったのかという事だ。私は三木が怪しいと思っている」 「何を言い出すんですか。彼は――」 綺堂の意見を瀞枝は遮った。瀞枝は尚も語りだす。 「普通の感覚であれば、確かに疑いの目がかけられる事は無い。だが、彼がもし何かの精神疾患であれば話は別だ。俺は俯いている三木の顔を確認するためわざとボールペンを落としたんだ。彼の顔は何故か笑っていたよ」 綺堂はその時の瀞枝の行動を思い出す。そしてとある一つの症例を持ち出した。 「考えられるのは代理ミュンヒハウゼン症候群…」 「周囲の関心を集めることで、自分の心の安定を得る事が多い病気だ」 「じゃあ、三木は世間からの同情を集める為に富久山夏帆を――」 江利賀が言いかけた途端、鏡はゲーミングチェアを回転させて話す。 「やっぱり、トロさんの勘の鋭さは一流ですね。三木洋輔が土岐田やその他の人間に誹謗中傷をたきつけるダイレクトメッセージを送っていたみたいです」 すると倉木がやってきた。取り調べの結果を話す。 「土岐田が全て自供した。三木洋輔に頼まれて今回の事件を起こしたそうだ」 「幾分となめた事をやってくれるじゃねぇか…」 氷川は怒りに満ちている。するとパソコンを操作していた鏡は何か異変に気付いた。 「三木のGPSをキャッチしました。三木は富久山昭三がいる病院に向かっています。そしてダークウェブでスタンガンを購入した事も突き止めました」 その言葉を聞いた江利賀と倉木はお互いに動き出した。 「倉木さん」 「ああ、分かっている」 2人は一斉に部屋を出ていく。 富久山が入院している病院に三木がやってきた。三木は病室のドアを開けるがそこには誰もおらず、もぬけの殻であった。 「何故だ…?どういう事だ…?」 三木は何が起こったのかわからず動揺している。そこに江利賀と倉木がやって来た。 「まさかアンタだったとはね。残念だけど富久山は別室に移ったから」 「一体何なんですか…?」 倉木は軽い笑みを浮かべて、三木に近づき警察手帳を見せた。 「逮捕に決まってんだろ。それ以外に何か?」 「僕なんて…証拠も無いのに。そんなの決めつけですよ」 江利賀は一枚の紙を三木に見せつける。次の瞬間、三木の顔から生気が消えた。 「どうして…?」 「俺の仲間がアンタの違法行為を突き止めたんだよ。人の目に見えないダークウェブなら突き止められないとでも思っていたろ。脇が甘かったね」 「ふざけるな…!」 三木はスタンガンを取り出そうとするが、倉木が素早く反応して阻止した。 腕を捩じり上げて、手錠をかける。 「大人しくしてろ。話は後で聞かせてもらう」 すると今度は氷川がやってきた。三木の顔を写真に撮る。三木は激高した。 「おい!撮ってんじゃねぇよ!」 氷川は尚も写真を撮る。しばらくしてカメラを見て笑みを浮かべた。 「これは最高傑作だな。いい画が撮れたぜ。塀の中に送ってやるから楽しみに待っとけよ」 「ふざけんな――」 言いかけた三木に江利賀は思いっきり腹にパンチを喰らわせた。 「ガタガタ騒ぐな。さっさと歩けタコが」 倉木は三木を引き摺るかのように連行していった。 翌日、テレビでは三木の逮捕を報じるニュースがセンセーショナルに報道されていた。Under Dの部屋には全員が集まっており、そのニュースを全員で見ている。 「人気ミュージカル俳優の裏の顔、中々の物だったな」 「でも、男の大事な所を殴った鏡も中々でしたよ。裏の顔って恐ろしいですね」 瀞枝に氷川がそっと耳打ちする。鏡は目線を氷川の方に向けた。 「聞こえてますよ。氷川さん。貴方も土岐田みたいにしてあげましょうか?」 「あ、ごめん…」 氷川は視線を逸らす。鏡は瀞枝に話しかける。 「まぁ、流石の勘でしたね。トロさん」 「そういうお嬢こそ決定的な証拠を2度に渡って掴んだんじゃないか」 「いえいえ」 鏡は少し笑みを見せた。扉越しに国馬も微笑んだ。 その頃、カポネのアジトでは庵部が何やら機械らしき物を開発していた。 「これで完成だ!この破壊兵器『プラズマ』があれば私は神にでもなれるのだ!」 庵部は優越感に浸っていた。
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