CASE8

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CASE8

江利賀と倉木は『新宿無差別通り魔事件』の慰霊碑にやって来ていた。 「あれからもう何年時が過ぎたか…」 「大体10年は経ってるんじゃないんですか。その10年の中で犯罪も巧妙化して目に見えないものが増えてきている」 倉木は少し溜息をつく。江利賀は倉木に話しかける。 「国馬さんの娘さんもこの事件で犠牲になった。俺をUnder Dに招き入れたその理由はここで繋がりがあったから他ならない。倉木さんを含めて」 「あの時の惨劇を知っている人間は数少ないからな」 倉木は慰霊碑をずっと見つめている。 その頃、蛾濠は遠巻きに2人の姿を見ていた。 「良い事を思いついちゃった…」 蛾濠は微笑みながらその場を去って行く。 カポネのアジトでは庵部が一人で作業をしていた。そこに覆面を被った男がやって来て声をかける。 「どうですか。破壊兵器『プラズマ』の威力は」 「ええ。効果抜群ですよ。こいつがあればその辺の電子機器は全て役に立たないゴミと化すのですから」 覆面の男は拍手をする。 「期待していますよ。盛大なる犯罪ショーを」 覆面の男は去っていく。庵部は不敵な笑みを浮かべていた。 Under Dの責任室に呼び出された鏡は国馬から説明を受けていた。 「この前の話の続きをしましょう」 「是非お願いします」 国馬はひとしきり間を置いて話し始める。 「『新宿無差別通り魔事件』を勿論知っていますね」 「はい、倉木さんの弟さんが犠牲になったあの事件ですね」 「そうです。あの事件で私の息子である篤は殺されました。その後、犯人はその場で命を絶っています」 国馬は悲しそうな目線を向ける。 「あのような事件を二度と経験したくない。そう思い私はこの組織を作り上げました。それがこの『Under D』です」 「何故、綺堂さん達をスカウトしたのですか?」 「彼らは『カポネ』によって人生を狂わされた。無論、この私も例外ではありません。『カポネ』を壊滅させる為に私は3人をスカウトし、今に至ります」 鏡はふと思った疑問をぶつける。 「何故、カポネが壊滅出来ないのでしょうか?」 「警察組織に恐らく内通者がおり壊滅させない様にカモフラージュされているのでしょう。私は恐らく中川哲也が怪しいと踏んでいます」 聞いたことの無い名前に鏡は首を横に傾げている。 「ああ、失礼しました。貴方はご存じ無いですね。中川哲也という人間は神奈川県警察本部長であり、実質上のトップの人間です」 「そんな人間が犯罪組織を…」 「あくまでも推測ですが、中川が由城の身柄を引き渡すように指示して来た事も何かあるのではないかと」 「つまり、何かを介して情報が洩れているという事ですか」 「その可能性が高いでしょう。鏡さん。貴方もお気を付けて下さい」 鏡は一礼し、振り向いて責任室から出て行った。国馬は椅子に深く座り直す。 翌日、Under Dの部屋には全員が集まっていた。国馬もそこに帯同している。 「全員集まったみたいですね。実は気になる出来事があり緊急で招集しました」 「どうしたんですか?」 鏡が尋ねると国馬はモニターを操作する。そこに映し出されていたのは蛾濠恵美だ。 「志紋のお友達がとうとう動き始めたか…?」 「『カポネ』のリーダーが犯罪を始めたか。佳境に入ったって感じだな」 国馬はモニターを切り替えて、別の映像を映す。すると次の瞬間モニターが消えた。突然の出来事に全員が驚きを隠せない。 「モニターが消えた…?」 「どうなってんだよ…!」 しばらくしてモニターは点いた。すると今度は部屋に中川が入ってきた。 「やぁやぁ、大変な事が起こってましたね」 「いよいよ、親玉の登場って奴か」 江利賀は立ち上がり、中川の前に立つ。 「おや、その生意気な顔は組織の危険人物である江利賀亜嵐じゃありませんか」 江利賀は失笑交じりの笑みを浮かべる。 「あんまり褒めないで下さいよ。褒めても何も出ませんよ」 江利賀は笑いながら言った後、表情を一変させ中川に睨みを利かす。 「それで、一体何の用ですか。警察のトップの人間って暇なんですね」 「口の減らない奴だ。カポネを未だに壊滅できないとは、この組織もお飾りもいいところだな」 「何て事を言うんですか…!」 鏡は立ち上がり中川の視線を捉える。中川は鏡を凝視している。 「君は誰だ?こんな小娘なんて、この組織に入れた覚えはありませんね。か弱い女子が出しゃばっても碌に良い事が無いというのに」 「私を誰だと思っているんですか…!鮮見友里子の娘です!」 「鮮見友里子…?誰だそれ?」 「何ですって…!」 母を馬鹿にしたような中川の態度に鏡が詰め寄っていくが、江利賀がそれを制した。 「これ以上はやめろ。お前が何を言ったところでこの男は右から左へ受け流すだろ」 「ほほう。物分かりが良いですね。では私は失礼しますよ。後はこのチビ娘の教育を施しておけば良いでしょう」 「一寸の虫にも五分の魂、気を付けた方がいいですよ」 江利賀は忠告する。中川は部屋を退出していった。鏡の表情は怒りっぽい。 「何なんですか、あの感じの悪さ」 そう言って鏡は自分の席に戻る。江利賀が呟いた。 「中川哲也、彼が入る寸前にモニターが消えたのは妙だな。まさかだと思うが、蛾濠恵美に関して知られたくない事情があるのかもな」 「それよりも、国馬さんが気になる事って何ですか」 国馬は気を取り直して、モニターを操作する。そこには3枚の映像写真が写っている。 「警察では公になっていない連続爆破事件、その3枚の映像には全て蛾濠恵美が映っています」 綺堂は少し退屈そうな表情を見せて国馬に尋ねる。 「成程、よっぽど警察が隠したい何かがあるって事か。国馬さん、何か知っている事があるんじゃないですか?」 「いや…」 国馬のリアクションを見て、瀞枝は溜息をついた。 「圧力って感じか。上の連中が隠蔽したい事実を隠し持ってるって事だ」 「隠蔽された事実を暴かれたら、これは一大スクープになるだろうな」 氷川も興味あるようなリアクションをする。 「やる事が決まっていればこんなの簡単でしょ。カポネを絶対に壊滅させる」 国馬の目を見て江利賀は言う。国馬もこくりと頷いた。 その頃、私服姿の志紋は喫茶店で待ち合わせしていた。しばらくしてその人影が見える。 「ごめん、待った?」 「全然大丈夫」 そこには蛾濠がお洒落をしてやってきた。志紋と向かい合わせで座る。2人は共にコーヒーを注文する。 「それで、何か私に用があったの?」 「ううん、会いたくなっただけ」 志紋はリラックスした表情を見せる。すると唐突に蛾濠が話を切り出した。 「ねぇ、15年前の出来事を覚えてる?」 「うん。あの事件、本当は絶対に両親がやったと皆が思っている。でも本当は違う。誰かに仕組まれたんじゃないかって」 「でも、ママもパパもいなくなって誰も信じて貰えなくなった」 志紋は蛾濠の暗い表情に心を痛める。 「私は信じているから。絶対に両親が事件を起こしていないって」 蛾濠の表情が和らいでいく。その後2人は世間話を続けていた。 由城が拘束されている拘置所では国馬と共に鏡が面会に訪れていた。 「小娘までやってくるとは、Under Dもよっぽど暇なんだな」 「好きでアンタと面会しに来ている訳じゃないわよ。ふざけないで」 由城は急に吹き出すように笑う。 「良い目つきだな。お前も俺達と同様に同じ穴の狢って訳だ。それで一体何の用だ」 国馬が今度は身を乗り出して答える。 「カポネの創設者に関して貴方に質問します。何か知ってることはありませんか」 「創設者…?知らないなぁ…?」 由城はとぼける素振りをしておどけている。鏡は机を叩いて怒鳴った。 「アンタが知らない訳が無いでしょ!そんなに信用ない人間なの?」 「どうだがな。ただ一度だけ覆面を被った男を見たことはある。恐らくそいつが親玉だろうな」 そこに看守がやってきて面会の終了を知らせる。由城は2人に尚も話しかける。 「最後に一つだけ忠告しておいてやる。庵部陸という男には気を付けておけ。あの男は危険な違法薬物『メビウス』を作っている。それがばら撒かれたら一巻の終わりだ。一気に地獄絵図となるぞ」 鏡と国馬は面会室から出て行った。由城は不敵な笑みを浮かべる。 その頃、Under Dの男性陣は倉木と共に作戦会議をしていた。 「恐らく、カポネは何か重大犯罪を犯そうとしている。昨日、警察宛てにメールが届いた」 倉木が見せたパソコンの宛名には『Invincible』と記されていた。綺堂は首を傾げている。その様子を見た江利賀は何かピンと来たようだ。 「インビンシブル、語訳すると無敵」 「無敵…?」 「ネットスラングでよく聞きますよ。失うものが何も無くなっている状態の人の事を『無敵の人』って言うんです。カポネってそういう人間の集まりじゃないかと」 瀞枝も反応する。 「おそらく庵部や由城もその『無敵の人』って所か」 「倉木さん、カポネに関して何か動きは掴めそうですか」 倉木は首を横に振る。氷川が立て続けに喋る。 「中川がますます怪しくなってきたな。江利賀、お前も気を付けておけ。既に目をつけられているぞ」 「了解です」 鏡と国馬は拘置所から出た後、歩きながら話し合っていた。鏡が国馬に尋ねる。 「本当に由城は何も知らないんでしょうか。カポネの幹部である人間が創設者を知らないなんて」 「口を割らないのは本当に知らないか、それとも知らない振りをしているだけか、私にもわかりませんね」 国馬も由城が見せたリアクションに戸惑っているようだった。 「由城は庵部陸という男には気を付けろって言ってましたけど、庵部って一体誰なんですか」 国馬は立ち止まり答える。 「庵部陸、彼もカポネの幹部の人間です。彼は過去に違法薬物を所持していた事で逮捕された事がありますが、何かの圧力によってすぐに不起訴になりました。被疑者登録データベースを閲覧しようとしましたが、彼のデータだけはロックがかかっており見ることができません」 鏡は不服そうな表情を見せる。 「じゃあ、覆面の男は…」 「まだそこについては明らかにならないでしょう。ですが中川の動きには十分注視した方が得策です」 国馬は再び歩き出す。鏡もその姿を黙って追いかけた。 アジトに帰ってきた蛾濠を庵部を出迎える。 「お散歩とはいい御身分ですね。女王様」 「覗いていたの?趣味悪いわ」 蛾濠は庵部に背を向ける。庵部は突然、アタッシュケースを蛾濠に手渡した。 その中身はナイフと拳銃が入っている。蛾濠は怪訝そうな表情をした。 「一体何よ。私にどうしろっていうのよ」 「貴方、ただ見ているだけで何も成果をあげられていないじゃないですか。Under Dの面々に見せてあげなさい。盛大なる犯罪ショーを」 蛾濠は何も言わず去ろうとする。そこに庵部が茶々を入れる。 「わかっていると思いますが、由城と同じミスをしたらタダで済みませんよ」 「言われるまでもないわよ。黙っててなさい」 庵部は卑しく何か企むような目をしている。蛾濠はアジトから去っていく。 翌日、こがね銀行では通常業務が行われており、そろそろシャッターが降りる時間になった。そこに全身真っ黒な服装をした蛾濠が銀行に入ってきた。すると蛾濠はいきなり銃を手にして行員に向かって発砲した。銀行内はたちまちパニックになった。 行員の一人は非常ボタンを押そうとしたが、蛾濠が素早く反応しその行員に銃を構えた。行員の手は止まる。蛾濠は手当たり次第に銃を撃っていき、行員に金を詰めるように指示した。 「さぁ、楽しみにしていなさい。Under Dの面々共。今からこの世を地獄絵図にしてあげるわ」 蛾濠は愉快な笑みを浮かべて銃を構えていた。 その頃、Under Dでは全員が集まっていた。鏡が拘置所で由城から得た情報を話す。 「由城はあまり情報を話しませんでした。ただ、庵部陸と言う男には気をつけろとだけ忠告されました」 「それだけでは足らねぇな。本当にアイツ人望無いみたいだな」 江利賀は思いっきり溜息をつく。 「庵部陸と言ったな。聞いたことがある。彼の父親は麻薬取締官、通称マトリだ」 「麻薬取締官の息子が違法薬物を作っている…?」 「尚の事、皮肉なもんだな」 綺堂は唾棄するかのように言う。氷川もその事を思い出すかのように言う。 「覚えている。確か庵部は過去に危険ドラッグを所持していた容疑で逮捕された事がある。俺はその時にマトリの父親に取材しに行ったら既にもぬけの殻だった」 「とにかく奴等を壊滅させなければいけませんね」 鏡がそう呟き、キーボードを操作し始める。すると次の瞬間、モニターがいきなり切り替えられた。鏡は突然の出来事に全員にモニターを見るように促す。その光景は丁度、銀行強盗の瞬間であった。 「何だよこれ…!」 江利賀は憤怒している。すると防犯カメラに向かってピースをする蛾濠の姿が映されていた。 「相当頭がいかれてやがる…!」 「こんな事をして何をするつもりだ…?」 すると今度はモニターをジャックして蛾濠の姿が映し出された。 「ヤッホー。Under Dの皆さん。御機嫌よう。私がカポネのリーダーである蛾濠恵美でーす。見ててくれたかしら。私の盛大なる血祭りショーを」 「ふざけるな!こんな事をして何がしたいんだ!」 「私にしか許されない、崇高なゲームよ。一人残らず皆殺し。でもゲームの最初の死者はこの客の中では無いわよ」 「どういう事だ…?」 蛾濠は一呼吸置いてその名を告げる。 「私の幼馴染である、志紋寿梨。彼女がこのゲームの最初の死者になるわ」 「ふざけんな――」 すると蛾濠は突然、天井に向かって一発発砲した。銀行内にさらに悲鳴が響き渡る。 「24時間以内に彼女を連れて来なさい。勿論、警察なんて呼んだらこの銀行内にいる客を一人ずつ殺してあげるわ。さぁゲームの始まりよ」 モニターはそこで切れた。Under Dの部屋には異質な空気が流れている。 「どうするんですか…?」 鏡は全員の顔色を窺うかのように尋ねる。江利賀は答えた。 「だったら、志紋を連れて来れば良いだけの事だろ。彼女の要求にはちゃんとした形でレスポンスしないとな」 瀞枝はフッと笑う。そして「良い案だ」とだけ言う。 「彼女は警察の人間ですよ。警察を連れてきたら蛾濠は無関係の人間を――」 「バレなきゃ良いだけの話。それに彼女が一番動きやすいからな」 鏡の心配を遮るかのように綺堂が話す。そこに国馬がUnder Dの部屋に入ってきた。 「国馬さん。志紋は今――」 「恐らく、大丈夫だと思いますが…」 国馬は志紋を少し心配しているようだ。 その頃、倉木と志紋は覆面パトカーに乗って、こがね銀行に向かっていた。 志紋は私服姿であり、一目見ただけでは警察とは気づかない格好をしている。 倉木は沈黙している志紋を見て少し心が痛んだようだ。 「大丈夫か?」 「…」 志紋は何も答えない。倉木はさらに続ける。 「その気持ちは分かる。かつての親友にこんな形で会うことなんて思いもしなかっただろうからな」 「栄美は何であんな事を…」 「それは本人に聞かないとそこまでは分からないだろうな」 そこに志紋のスマホが鳴った。電話の相手は国馬だ。 『志紋さん。大丈夫ですか?』 「はい。一応は」 『蛾濠栄美を止めて下さい。これは警察官としての使命です。最悪、犯人射殺で事件を解決させても構いません』 「わかりました…」 志紋は電話を切った。電話の後、倉木が声を掛ける。 「覚悟は出来たか?」 「はい。栄美を絶対に逮捕します。国馬さんは射殺しても良いと言ってましたけど、私は絶対にそんな事は望んでいません。彼女には生きていて欲しいから」 「わかった。どういう結果になってもお前を支持する」 倉木はさらにアクセルを踏む力を強める。覆面パトカーは目的地に向けて進み始めた。 カポネのアジトでは庵部がその様子をスマホで見ていた。 「まさか、本当に大胆な事をやるとはねぇ。もう袋の鼠もいい所でしょう」 庵部は配信されている映像をみて大笑いをしている。 「女王様にしてみれば上出来でしょう。私もそろそろ動きますか」 庵部は立ち上がり、手にしている『メビウス』を握りつぶす。 一方、Under Dの部屋では鏡がこがね銀行内の防犯カメラをハッキングして状況をモニタリングしていた。部屋には江利賀と国馬の他には誰もいない。 「残酷ですよね。親友を撃ち殺さなきゃいけないって…」 鏡の一言に全員が沈黙している。そして国馬の方に目線を向けた。 「そんな事をしたら志紋さんは一生傷つきますよ…!」 鏡は少し怒り口調だ。そんな中、江利賀が重たい口を開く。 「お前だって撃てなかっただろ。撃つ事が出来るのは本当に覚悟が決まった人間だけだ。俺が凛堂に向かって発砲したその瞬間を見ていただろ」 鏡はその時を思い出す。国馬は冷静に鏡を諭すように言う。 「江利賀さんをここに引き入れた理由はそれです。平井太郎を撃った事を倉木さんから聞いていました。その決断力の強さこそが江利賀さんを支えてるのかもしれません」 「ここからはお前も覚悟を決めろ。何があっても迷うな」 江利賀は鏡に伝え、部屋から出て行った。 一方、綺堂達もこがね銀行に向かっていた。瀞枝が車を運転している。 「人って何処で何が起こるかわからないですね。志紋と蛾濠、2人は15年前までは普通の無垢な親友だった」 「15年の流れた月日が彼女達を変えてしまったな…」 綺堂と氷川は後部座席で話している。瀞枝も運転しながら会話に加わった。 「生まれてくる子供は親を選べない。無論、その逆も同じだ。庵部にしろ由城にしろ15年前はこんな筈じゃなかっただろうからな」 「トロさん、奴らに肩入れする気じゃ無いでしょうね」 「当然だろ。悪は悪だ」 車は丁度赤信号の先頭で止まる。その頃、部屋にいる鏡から通信が入った。 『新たな情報を掴みました。あのメールの送り主は庵部です。でも腑に落ちないですよね。なぜ蛾濠が犯罪を実行しているのか…』 「わかった。情報をありがとう」 通信が切れた後、綺堂の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいた。 「確かに妙すぎる。送り主が犯罪を実行しないのは何故だ…?」 「そんな事は今考えても答えは出ないぞ。とにかく、銀行内にいる客の救出が優先だ。それ以外は何も考えるな」 瀞枝は綺堂の疑問には答えず、車を急発進させた。 蛾濠はこがね銀行内で暇を持て余していた。 「早く来ないかなぁ。もう待ちくたびれちゃった」 時間だけは一刻と過ぎていく。その時、自動ドアが開いて志紋がやって来た。綺堂等もそこに同伴している。気に入らなかったか、蛾濠は思いっきり舌打ちをする。 「お前のとこの見張りは貧弱だな。約束通りお友達を連れてきたぜ」 「ゲームの最初の死者はこいつなんだろ?だったら無関係な客ぐらい解放しろよ」 「言っておくが、私達は警察ではないからな」 蛾濠は「下らない」と吐き捨て綺堂達に客を解放するようなジャスチャーを見せる。綺堂達は客を順次誘導して行く。 暫くして銀行内には蛾濠と志紋の2人きりになった。笑っている蛾濠に対して、志紋は怒っている。 「ようやく2人きりになれたね。私って凄く運がいい感じだわ」 「何でこんな馬鹿な事をしたの…!」 蛾濠は銃を志紋の方に向ける。そして右側に逸らして1発撃った。 「何故わざと外したの…?」 「決まってるでしょ。もっと寿梨ちゃんとお話がしたいからじゃん」 「自分が何をしているかわかってるの…?目を覚まして!」 志紋の訴えも蛾濠には届いていないようだった。 「15年前の事件、誰も信じてもらえず警察は一方な決めつけで両親を犯人にした。警察なんて馬鹿で無能な役立たず、そんな警察に対抗する為に私達は犯罪組織の一味になったのよ」 「だからって、やって良い事と悪い事があるわ…!」 「寿梨ちゃんもこっち側に来ない?めちゃくちゃ楽しいわよ」 最早、暖簾に腕押しな蛾濠の様子を見て警察手帳を蛾濠の目の前に見せつけた。蛾濠は鼻で笑っている。 「何の冗談?ヒーローごっこのつもり?」 志紋もついに拳銃を構えて、静かに蛾濠に告げる。 「私、警察官だから」
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