信濃という男

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信濃という男

次の日の朝はやり忘れていた課題を終わらせるために早めに学校へ登校した。 こんな時間帯に学校にいる子なんてそうそう居ないと思い、鼻歌を歌いながら上履きに履き替える。今日は足取りがとっても軽い。 だって貴方と一緒だもの。 廊下を歩いていると階段の曲がり角で誰かにぶつかった。やばい。衝突の拍子に私のスクールバッグと相手のメガネが落ちる。 先生だったらどうしよう、と慌てて顔をあげるとそこにいたのは同じクラスの信濃であった。 彼は大人しく無愛想で、クラスの男子からも距離を取られている。私も彼が何を考えているのか分からなくて声を変えることが出来ていなかった。黒縁メガネに目元までかかった前髪。そこから垣間見える瞳はまるで私を見透かしているようで苦手だ。私もあまりワイワイするのが得意ではなかったから仲良くなりたいと思っていたけれど、どうやら私は信濃に嫌われているようで、連絡事項をした時でもしかめっ面だったからきっと嫌われているのだろう。 この後なんて謝ったらいいんだろうとあたふたしていると。 「それ、返して」と素っ気なく手を出してきた。怖くて彼の顔が見れない。 『あ、ごめん返すね。多分ひびとかは入ってないと思うんだけど…』と慌ててメガネを渡す。 「別にそんな気のしてないから、ありがとう」と彼は乱雑にメガネを取った。乱暴なとりかたの癖にお礼はちゃんと言うのね。不覚にも少し関心してしまった。
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