彼を知りたい

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彼を知りたい

私は中学生の頃から文豪が大好きだった。 だから、自分で言うのもなんだけどクラスメイトより沢山読んでる自信はあったし、他の本でも作者の意図が分からないなんてことなんて数える程しかない。 それなのに朝読めたのはたったの2ページだけ。ここで引くなんてありえない、と思って必死に食らいつこうと思ったけれどその思いは呆気なく砕け散った。 やはり彼の文章は高貴なのだろうか。こんな平凡な中学生が理解できるなんて思っているのが厚かましかったのかもしれない。 結局、家に帰ってもこの本が忘れられなかったので、靴を脱いで、手を洗って部屋着に着替えたら一目散に階段をかけ登って部屋に入った。本にそっと手を伸ばす。誰もいない部屋に自分の乱れた呼吸が響いて、少しうるさい。ゆっくりと息を整え、いざ本を開く。 同じく1人で読んでもさっぱり訳が分からなかった。負けた気がしたけれど、仕方なくスマホで考察を読むことにした。 …「考察ってもっと分かりやすく説明してくれるんじゃなかったのかよ……」 結果は惨敗。みんな内容を理解した上で自分の意見を述べ、新たな視点を開拓していく。 内容すらままならない私に対して、「おこさまだ」と、言うかのごとく突き放されたような気がして酷く虚しくなった。 悔しい。こんなにも貴方の作品が好きなのに何故読めないんだろう。有名な文豪の作品は全て網羅したにも関わらず手も足も出なかった。「読むのやめようなぁ…」と誰が聞いてる訳でもないのに呟く。 でも、途中で放り投げたくない。逃げたくない。だって貴方の作品だもの。そう決心した瞬間にどっと疲れが背中にのしかかった。そう言えば、この本を読んでからその事しか考えられなくて、ご飯をまともに食べていないんだっけ。 その後は思い立ったように本をテーブルに投げだし、 ボフっと上向きに大の字でベットへ倒れ込んだ。 やけに掛け布団が柔らかく感じて、このまま沈んで奥深くまで吸い込まれる気がした。
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