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小雪にコーヒーを運んでもらいソファに落ち着く。
「わぁ!かわいいなぁ♪この部屋円がいた時はなんっにもない空き部屋みたいになってたのに」
そう言って梨華がキョロキョロと部屋を見渡す。
「あ!あそこの柱のキズ…」
「どこ?…あ、ホント。気づかなかった」
春菜が立ち上がると見上げる程度の位置に一筋、乱暴にラインが引かれている。
「円の目標身長!律より1cm高い183cm♪」
「ふふ 円くんらしい。…3人は本当に仲良しだね!なんだか、うらやましいなぁ」
たくさんの思い出がある。
楽しい思い出も、辛い思い出や苦しい思い出もあるかもしれない
それでも、共有できる仲間がいる。
「私は、春菜さんの方がうらやましいよ?」
「え?」
梨華の言葉に振り返ると、その栗色の大きな瞳と視線がぶつかり…今までとは違う色を見せた。
「春菜さんは言わないの?円に」
「…な、何を?」
心の内を探ろうとするかの様な梨華の鋭い視線に、つい視線をそらしたくなる。
しかし、梨華は春菜に話をしに来たと言った。
視線をそらすのは、梨華の真剣な気持ちに失礼だと感じる。
「春菜さんの気持ち」
「…何のこと?私はいつも円くんに好き勝手言ってるから、これ以上は…」
「うそ。うそだよね?1番肝心なこと、伝えてないでしょ?」
「… …」
「円、バカだから、ちゃんと言わないと伝わんないよ?」
梨華の真剣な瞳には曇りも濁りもない。澄み切った、円と同じ輝きを持っている。
ーー弱いなぁ…この目…
「梨華ちゃん、円くんのこと好きなんだよね?」
「うん。大好き」
「じゃあ、私のことなんて考えなくても大丈夫だよ!私は、円くんのこと… …弟くらいにしか見られない」
梨華に笑顔を向ける。
そして、心が痛む。
ーー私はきっと、梨華ちゃんに嘘をついてる…。これほど真剣に向き合ってくれる彼女に対して…
「…じゃ何で、そんなに辛そうに笑うの?」
ぽつりとつぶやくように言う梨華に、伏せかけた視線を戻す。
「梨華ちゃん…?」
梨華の大きな瞳から涙があふれ出す。
「嘘つくの、しんどいでしょ?」
ズキンと、心臓を射抜かれた様な感覚。
「何から逃げてるの?」
「ーーっ!?」
「1番辛いのは、苦しいのは…自分に嘘をつくこと。春菜さんにそうさせてるのは、何?」
『お父さんお母さん!独りにしないで…ヤダよ!怖いよぉ!!』
涙が頬を伝う。
小学生の春菜が、必死に不安と戦っている。
常に、あの日から常に、この感情と隣り合わせに生きてきた。
円に出会うまで… …
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