男と女

10/12
前へ
/153ページ
次へ
「梨華ぁ?言いたいこと、分かるかぁ?」 言葉に怒気を込め、円が上から梨華を見下ろす。 「わ~お!怒ってるよねぇ?」 「当たり前だろ!バカ!こんな時間に女が1人でウロウロしてんじゃねぇよ!」 「…え?」 てっきり、連絡に出なかったことに腹を立てているのだと思った。 円は自分のことなど同性と同じと思っているものだとばかり… ーーたったこれだけのことが嬉しいなんて…私も健気だよね… 「で?玄関のあの荷物なに?」 その後ろで律が続ける。 「まさか、もうアメリカ帰る気なの?」 「ピンポーン♪元々4日間の滞在予定だったんだぁ」 「は?1週間って言ってたろ?」 へへっと照れ臭そうに笑い、梨華が続ける。 「情けない話、本当は今回帰国しないつもりだったんだけど…やっぱり、会いたくてね…円と律に」 勝気な梨華からは想像できない頼りない笑顔。 「会っちゃったら、今度は別れが辛くなるじゃない?」 「そんで、帰る日をズラして伝えてたの?」 律の問いに笑顔で答える。 「あーあ…最後、あんたたちには会わないつもりだったのになぁ…」 「飛行機は?何時?」 「明け方だから、これからタクシーで向かうよ!」 よっとその場から立ち上がり、梨華は大きく深呼吸をする。 「次帰って来た時こそ…円は私に振り向いてくれるかな?」 誰に対して言っているのか。 これまでにない、真剣な告白に感じた。 「…ごめん、梨華…。やっぱ俺… …春菜が好きだ」 「… …ふーん。だってさ!春菜さん♪」 くるっと春菜を振り返り、梨華がにこっと明るい笑顔で笑う。 「春菜さんは間違ってる。円は光なんかじゃない…」 「ぇ…?」 「毎日夜は来るけど、昇らない朝日はない。円は春菜さんの…太陽だよ!」 キラキラと眩しい笑顔。 なぜ円は梨華ではなく、自分を選んだのか… もしかして自分はもっと… 自信を持っても、良いのかもしれない。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加