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ザアッ… …
春菜の言葉に応えるように、大きく風が春菜の髪をさらう。
「お父さん、お母さん…紹介するね。橘 円くん。日狩のおじさまのお友達の息子さんで…私の、恩人」
春菜の紹介に、円が一歩前に出る。
「はじめまして…春菜さんにはお世話になっています」
「まど…」
「春菜さん、すげぇがんばってます。今日ここに帰って来るまでに色々あったと思います。…沢山、話を聞いてやって下さい」
円の真摯な態度に、本当に笑顔の両親が目の前にいるかのような錯覚を覚えた。
自然と涙が頬を伝う。
円が持っていた花束を春菜に渡し、ぽんぽんと頭をなでる。
「待ってるから…」
優しい笑顔で一言残し、春菜から十数メートル離れたベンチに座った。
どれほど時間が経っただろう。
5年の月日は長く、語り尽くせない。
こうやって向かい合ってみると、なぜ今まで帰ってこなかったのかと疑問に思うほど…自分は両親が好きだと痛感した。
墓石の前から立ち上がり、円に視線で合図する。
それに合わせて円も春菜のそばまで来る。
「ちゃんと話せた?」
「うん!いっぱい、話した」
よしよしと頭をなでると、ふふっと幸せそうに笑う春菜の表情はスッキリとしている。
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