199人が本棚に入れています
本棚に追加
黒髪で背の高い匠の姿は、成人式の時よりもかなり大人っぽくなっていた。
まだ寒いので、真っ黒の防寒着に身を包んでおり、全身が黒づくめになっている。
そんな匠は美奈子の姿を見て、軽く手を振る。
「しばらくお二人でどうぞ」
晴美は二人を玄関に残して、戻っていってしまった。
騒がしい人がいなくなり、シンとした時間が過ぎる。先に沈黙を破ったのは、匠だった。
「久しぶりだな。その格好……手伝いでもしてるのか?」
「あっ! そ、そうだよ? 手伝いで……手伝いだから着てるんだからねっ!? 私服じゃないからね!?」
今になって、晴美のおばあさんのような作業着を着ていたことを思いだした。しかも、田起こしをするだけであったので化粧もしていない。
すっぴんで人に会っているのが恥ずかしくなり、慌てて顔を手で隠す。だが、耳が赤くなっていることは隠せなかった。
「そんな恥ずかしがらなくても……俺はいいと思うけど」
「もう……絶対心の中で馬鹿にしてるでしょ?」
「そんなことないって。家の手伝いするなんていいことだろ?」
「まあ……他に仕事がないからね」
「ああ、辞めてきたんだって? うちの母さんから聞いた」
やはり美奈子が仕事を辞めたことは、母親同士仲がよいことがあって伝わっていたようである。今更あれこれ言うことでもないが、口の軽い母に秘密を漏らすべきではないと感じた。
「色々あってねぇ、ほんと色々と。たっ……そっちは何してるの?」
最初のコメントを投稿しよう!