199人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ。お前は仕事でも探しとけ」
美奈子がトラクターから離れると、賢治は扉を閉めた。そして大きなエンジン音を響かせて走り出す。
美奈子がおそるおそる運転するよりも早いスピードで庭から出ていった。
「仕事、かぁ……」
都会から田舎へUターンして、日が経っている。いつまでも親のスネをかじって過ごすわけにはいかない。両親も定年までは兼業農家としてやってきた。そこまで広い土地でお米を作っている訳ではないので、平日は会社で働き、土日に農家として働く。
美奈子の両親、そして祖父母もそのように兼業農家として働いてきた。
正直、米農家としての収入はさほど高くはない。それに、天候にも左右される。農業だけで安定して暮らすことは難しい。なので、職に就かなければならないのだ。
働かなくてはならないが、働きたくない。資格もなく三十歳になる人を新規で雇う会社がそうそうあるわけではない。また、仕事に就いても、上司やら周りの人たちによっては最悪になるというとを身をもって知っている。そのことが、美奈子の就職活動をする障害になっていた。美奈子は、思わず「はぁ……」と小さくため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!