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長い沈黙のように感じた。実際は、二、三秒程度だったのだろうが。
沈黙をやぶった少女の声は明るくて、あっけらかんとしていて、それ故に僕は後悔した。
「なんだ、そんなことも知ってるのかぁ……。カイくん、まだ帰らなくて平気?」
ここで、帰ると言えていたら、あんな思いをしないで済んだのに。好奇心と、聞いたのは僕だろうという言い訳が勝った。
「平気」
「じゃ、そこで話そっか」
少女はにこっと笑うと、古びたバス停のベンチに座った。それに倣って、僕も座る。
軽く、明るく、話し始める。
「わたし、心臓の病気なんだ」
沈黙する僕に構わず、少女は話し続ける。
「もう永くはないって言われてるから、いずれ死ぬんだけどね」
そう言って。
僕を見る。
やめろ。
見るな。
その色のない瞳から、顔をそらす。
「だから、きえたいの?」
「…………わたしの、お母さんはね。わたしに何も食べさせてくれなかった」
僕の質問に答えず、少女は再び語り始める。
「お父さんは毎日のように、わたしを殴った。それに気づいた叔父さんと叔母さんは、わたしを引き取って、育ててくれた。……どうしてだと思う?」
問いかけ。
「……君のことが、心配だったから、でしょ?」
と、僕は答える。
違うとわかっていても、そう答えずにはいられなかった。願わずにはいられなかった。
救いが、あったのだと。
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