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僕の言葉に、少女はふふっと笑う。
「普通はそうだよね。でも、違うの。ただ単に、自分の身内から犯罪者が出たら困るから、しぶしぶわたしを引き取っただけ。……わたしが死んでも、気にしないよ」
真っすぐ、前を向く。
「カイのお父さんとお母さん、優しい?」
「……まぁ、うん」
「大事にしないとだめだよ、約束」
「ああ……」
わたしとは違うんだから。
と、息だけで呟いている気がした。
「ほんと、酷いんだよ? ご飯のときだって、わたしの存在がないのかのように時間が進むし。最近は、心臓が痛いからってベッドにずぅっといるけどね」
寝たふりならぬ、死んだふりだよ、と笑う。
全部わかった。
世界に、あたりまえの愛さえもないから、色のない目をしていて。
それでも、愛されたいからいい子を演じていて。
そして、諦めているから、興味がないから、他愛のない会話しかしないのだ。
「うみ」
一言、少女が呟く。
思わず僕は、少女の方へ顔を向けた。
「あの海、お盆のお祭りの時に灯篭流しがあるの。すごく綺麗なんだよ。病気で死ぬくらいなら、灯篭が、星がいっぱい咲く海できえたい」
夕日に照らされ、キラキラとオレンジ色に輝く海が、視界の端で波打っている。
押して、引いて、押して、引く。
押し寄せる感情に、感覚がすぅっと引いていく。
何も言わない――否、何も言えない僕に、少女は「と、まぁ、そういうワケ」と、無邪気に笑った。
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