海の星

13/21
前へ
/22ページ
次へ
 チャイムの音で、ようやく目が覚めた。  授業中に居眠りをしてしまったらしかった。  また、夢を見ていた。  遠い、悪夢のような思い出の夢を。  深くため息を吐いて、あぁ今は昼休みかと思う。いつの間にか授業は終わっていたらしかった。  いつものように、毎朝母が作ってくれている弁当を出そうとして、今日は母が朝早くから友人と出かけてしまったため、ないことを思い出す。  弁当の代わりに、今朝コンビニで買ってきたパンを出す。 「あの、真壁くん……」  控えめに、僕を呼ぶ声が聞こえた。  顔を上げると、女生徒が一人、立っていた。 「何?」  聞き返すと、視線を泳がせながら、ぼそぼそと話し始めた。 「あのー、もしよかったら、なんだけどね……?」  嫌な予感に、思わず手に力が入り、パンの袋が音を立てる。 「お盆のお祭り、一緒に行かない?」  ドクン  と、振動がはねた。自然とさらに手に力が入り、パンの袋はぐしゃりとつぶれる。  お盆のお祭りなんて。 「あー、ごめん。その日は予定があるんだ」  笑って断る。  一昨年も、こうして断った。  いや、一昨年はもっと、冷たく笑わず言ったのだった。  あの日、僕が違う反応を返していたのなら。僕が、僕がもっと―― 「真壁くん?」  心配そうな声で、我に返る。 「ああ、ごめん。誘ってくれてありがとう。じゃあ」  パンを持って、教室を出る。  意味もなく廊下を歩き、歩いて、歩いて、そして立ち止まる。  吐き気がした。  ここ最近ずっと、あの日の夢を見る。いくら寝ても心が休まらない。ずっと、倦怠感に満ちている。  パンを廊下に置いてあるゴミ箱に叩き付ける様に投げ捨てる。  食欲なんて消え失せていた。  深く、深くため息を吐く。  深く、深く。  胸の中の黒い靄を、吐き出すように深く……。  ――嗚呼、少女は、どこまで深く沈んだのだろうか。  たった、ひとりで。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加