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チャイムの音で、ようやく目が覚めた。
授業中に居眠りをしてしまったらしかった。
また、夢を見ていた。
遠い、悪夢のような思い出の夢を。
深くため息を吐いて、あぁ今は昼休みかと思う。いつの間にか授業は終わっていたらしかった。
いつものように、毎朝母が作ってくれている弁当を出そうとして、今日は母が朝早くから友人と出かけてしまったため、ないことを思い出す。
弁当の代わりに、今朝コンビニで買ってきたパンを出す。
「あの、真壁くん……」
控えめに、僕を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げると、女生徒が一人、立っていた。
「何?」
聞き返すと、視線を泳がせながら、ぼそぼそと話し始めた。
「あのー、もしよかったら、なんだけどね……?」
嫌な予感に、思わず手に力が入り、パンの袋が音を立てる。
「お盆のお祭り、一緒に行かない?」
ドクン
と、振動がはねた。自然とさらに手に力が入り、パンの袋はぐしゃりとつぶれる。
お盆のお祭りなんて。
「あー、ごめん。その日は予定があるんだ」
笑って断る。
一昨年も、こうして断った。
いや、一昨年はもっと、冷たく笑わず言ったのだった。
あの日、僕が違う反応を返していたのなら。僕が、僕がもっと――
「真壁くん?」
心配そうな声で、我に返る。
「ああ、ごめん。誘ってくれてありがとう。じゃあ」
パンを持って、教室を出る。
意味もなく廊下を歩き、歩いて、歩いて、そして立ち止まる。
吐き気がした。
ここ最近ずっと、あの日の夢を見る。いくら寝ても心が休まらない。ずっと、倦怠感に満ちている。
パンを廊下に置いてあるゴミ箱に叩き付ける様に投げ捨てる。
食欲なんて消え失せていた。
深く、深くため息を吐く。
深く、深く。
胸の中の黒い靄を、吐き出すように深く……。
――嗚呼、少女は、どこまで深く沈んだのだろうか。
たった、ひとりで。
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