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蝉の声と、母が僕を呼ぶ声で目が覚めた。
数学の課題をやっているうちに眠ってしまったらしかった。ぐっしょりと、汗をかいていた。
疲れているからだろうか。ここ数日、ずっと眠気が収まらない。
「海星、開けていい?」
母の声と共に、ドアがノックされる。年頃の僕を気遣ってなのか、許可なしには部屋に入ってこない。
「いいよ」
寝ていたことを悟られないよう、シャープペンを持ち、参考書に向かう。
「お昼ご飯できたけど、食べる?」
少しだけ開けたドアの隙間から母が顔を出す。
その姿に苦笑しつつ立ち上がる。
「別に入って来てもいいのに、さ。昼飯何?」
「そうめん。勉強してたの?」
「夏休みの課題だよ、あと1ページやったら下降りるから、待ってて」
「わかったわ。……海星、最近顔色悪いわよ、無理しないでね」
心配そうに言う、母。
親が子に与える、当然の、あたりまえの愛情。
それさえもない世界は、どんなふうに目に映るのだろうか。
「うん、大丈夫。ありがとう」
約束。
「頑張ってね」
母が静かにドアを閉め、足音が遠ざかる。
深く、ため息を吐く。
放っておいてくれ、なんて思ってはいけない。
忘れるな。あれは僕が……。
もうすぐ、8月になる。
お祭りの日が、少しずつ迫ってくる。
あと何日?
1日? 2日? 3日?
日々は過ぎ去る。
あの日が、近づいてくる。
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