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帰り道は雨が降っていた。
黒い傘を差し、濡れたアスファルトの道を歩く。
人通りの少ない、田舎道。
いつも通りのはずなのに、雨というだけで別物に見えてしまうこの心理に、名はあるのだろうか。
遠くに見える、古びたバス停の端に、ずぶ濡れの少女がいるように見えた。
手から、傘が落ちる。
何故?
時間が止まったのかのようだった。
瞬きを、ひとつ。
再び見えた景色は、昨日と変わることのない古びたバス停だった。
少女の姿など、何処にもない。
「そう、だよな……いるわけが、ない」
かすれた、震えた声で呟いて、空を見上げる。
どんよりと、埃をかぶったように暗い空から、雨が降り注ぐ。
あの日の涙のように。
傘を拾い、歩き出す。
あの日も、こんな雨だった。
ただ、
ただ、
ただ、つらい。
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