海の星

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 二年も前のことだ。  彼女に出会ったのは。  あの日も、こんな雨だった。  小雨とも言えない、普通とも言えない、  中途半端な雨。  あめ  中学二年の春。  僕は、親の仕事の都合という、ありきたりな理由で転校することになった。  お引越し、である。  学校は春休みの最中。  家は引っ越ししたてでごちゃごちゃ。  することもなく、暇な僕は、毎日のように外に出ていた。  数日かけて、ぐるっと町を一周して持った印象は、田舎。  町らしき場所のはずれには、田んぼがあるような。  都会と言われていた場所から来た僕としては、目を疑うほどに交通量も少なく、人通りも少ない。  そして、全体的に廃れている気がする。  なんというか、味気ないというか。  色あせている、というか。  そんな印象を持った場所を見て回るのにも、流石に飽きてきた五日目の帰り道。  僕は、少女に出会った。  その日は雨が降っていて。  僕は黒い傘を差していた。  毎日のように通っている、家の近くにある古びたバス停に、ひとりの少女がずぶ濡れで立っていた。  町と似たような、色のない目をしていた。  頬を、水滴が伝う。  雨粒なのか、涙なのか。  ふいに、少女の口が微かに動いた。 『きえたい』  雨の音にかき消され、声は届かなかったが、確かに少女はそう言っていた。  ただ、それだけで。  僕は言葉を失った。  何も、言えなくなった。  もしも。  もし、この時僕が。  こんな言葉さえも失ってしまうような、そんな言葉が言えていたのなら。  何かが、変わっていただろうか。
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