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退屈な春休みも終わり、初の登校日。
「やっぱり、一緒に行ったほうがいいんじゃない? 大丈夫?」
出かける前直前に言い出す母に呆れ笑いを零す。
「大丈夫だって。何度も道は通ってるし」
「そう? じゃあ、行ってらっしゃい、海星」
優しく微笑む母と、すでに仕事に行ったであろう父の顔を思い浮かべながら、そっと呟く。
「行ってきます」
担任の教師に連れられ、教室の戸の前に立つ。
さすがに少し、緊張してきた。
「真壁……かいせいくん、でいいのかしら?」
「あ、はい」
「軽く自己紹介、お願いね。みんないい子だから、きっと仲良くなれるわ」
と、微笑む教師。
このタイミングでそう言われても、何も信じられないが、確かにこんな気弱そうな教師が担任で成り立っているのであれば、問題のある生徒はいないのだろう。
戸を開け、中に入る教師の後に続き、教室内に入る。
ざわめき声と、好奇心からの視線が一気に自分に集中して、ぞわりとする。
人からの視線には、いつまで経っても慣れない。
黒板の前に立ち、自己紹介をする。
「初めまして。マカベ カイセイです。真実の真に、壁で真壁、海に星で海星。前は、カイと呼ばれていたので、そう呼んでもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、パチパチパチと拍手が鳴った。「よろしくー」と、声をかけてくれる子もいる。
極めて模範的な、普通のクラスという感じだ。
担任が指し示した席、窓側の一番後ろの席に座る。周りを確認し、息を吞む。
隣に座る少女、その横顔が、あのバス停で見た少女の横顔と重なる。
あの時と違って、目は輝いているが、同じ子だ。
少女は僕の方を見ると、にこっと微笑み、言った。
「カイくん、って呼ぶね。わたしはミセイ。海に星で、海星。よろしくね」
とても、あの色のない目をしていた子とは思えない、明るい声と、表情だった。
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